1泊2食1万円以下の「温泉宿」を探す楽しみ 昔ながらの駅前ビジネスホテルも穴場だ

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古い酒屋で買い物をして主人と町の状況について世間話をしたのだが、「観光客が来なくなったのは大きいね。宣伝やっているような大きなホテルにしか行かないもの。それに人口減少。そうすると自治会の力も弱って地域活動も密にやらなくなっちゃった」と語っていたことが印象に残っている。

1泊2食付き「8000円」でも、このレベルの夕食が出る

それでも昨年の12月に訪れたときは、クリスマスの飾り付けとともに町議会の宴会が入っており賑わいを感じ、より応援したくなった。

旅行者としては心配しても仕方のないことなので、単純に訪れて楽しむのがいいと思う。

1泊2食で1万円以下という宿は、有名な温泉地にも存在する。最近泊まったところでは、石川県の和倉温泉や群馬県の草津温泉が挙がる。

今年4月、ツエーゲン金沢戦のため石川県に向かう途中(私はジェフユナイテッド市原・千葉を応援している)、ふと温泉に泊まりたくなり、当日の夕方、和倉温泉の古びた宿を予約した。到着が遅い時間だったので朝食のみで4300円であった(2食付であれば7800円程度とのこと)。

行ってみれば明治時代から続いているとのことで、きらびやかなイメージのある和倉温泉にあってひっそりと落ち着く宿であった。もちろん源泉かけ流し、夜中に何度も温泉を味わった。なお、夕食は近くのおでん屋に入った。ひとり酒を飲んでいると、客のじいさんが唐突にカラオケを始めたりして、ここは温泉街なのだったと理解したが、これも旅の思い出だ。

1人歩きの「孤独」が楽しい

同じく4月、2018年度の有給休暇消化ギリギリの金曜に休みが取れ、あてもなく高崎行きの湘南新宿ラインに乗った。移動中検索したところ、草津温泉で7700円の宿がヒットした。草津といえば大変メジャーな温泉地である。意外に思いながら予約した。

草津温泉街の中心に位置する湯畑(筆者撮影)

宿は古かったが、部屋で食事ができたし、何より2種類の湯質が楽しめた。夜、散歩に出たが、ライトアップされた湯畑は満月の夜に幻想的であった。場所柄カップルやグループ旅行の人々が多く、中年男が1人うろうろしているのは私だけのように思われたが、その孤独がかえって楽しい。

安価で年季の入った地場のビジネスホテルや温泉旅館は、誰にでも勧めるものではない。むしろ近代化された宿を好む人のほうが多いだろう。

私は昭和40年代の生まれなので、「郷愁」という補正が大きくかかっているとも思われる。今になって思うと、好きなチームの応援遠征や、まとまった休みの旅など、当初は安さから選んでいたのが、徐々にそれ自身も興味の対象になっていったふしもある。

でも、建物は古くても概して清掃は行き届いているし、サービスで補おう、という宿が多いように感じる。それに古い宿は、一人旅でふとこみ上げてくる寂しさに似つかわしい。

宿の選択肢のひとつとして、あらかじめそういうものだと、鷹揚な気持ちでふらっと泊まってみるといいように思う。

八田 裕之 週末旅行家

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はった ひろゆき / Hiroyuki Hatta

1967年生まれ。武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部電子通信工学科卒。JR全線完乗した鉄道ファンにして、Jリーグをこよなく愛する。平日は会社員だが休日はJリーグ遠征で全国奔走の日々。フュージョンバンド「Quiet Village」のリーダーとしてギターと作曲を担当、オリジナルアルバム発表、鉄道コンピレーションアルバム参加など、音楽活動も行う。

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