プロセスと対話を重視するオービック流「人材定着」術

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プロセスと対話を重視するオービック流「人材定着」術

入社3年以内の離職率たった4%、という会社がある。それも、新3K職場(きつい、厳しい、帰れない)と呼ばれ、簡単に社員が辞めてしまう情報システム業界に。中堅・中小企業向けシステム販売を主軸とするオービックだ。「植木から育てるよりも、種から育てたい」という野田順弘会長兼社長がとるのは、直接面接して選考した新卒社員をゼロから育て上げる経営手法。そこに魅力を感じ、入社を希望する若者が絶えない。

目下10期連続で営業増益中のオービック。同社のシステムを導入する顧客は現在7900社を超える。年800社ペースで増加中で、新規顧客が売上高に占める割合は5割にも上る。「最初の商談がダメでもこまめに通い詰め、4~5年後のシステム更新時で受注につなげる営業力は、とてもマネできない」と他社はその営業力に舌を巻く。入社4年目の営業マン、濱崎輝生氏は「1日30~40件の訪問は当たり前。1日に100件回ることもある」と話す。門前払いを食らうことしばしばの、まさに地をはう営業が成長の原動力だ。

門前払い多い過酷な営業社員の頑張り支える秘訣

この業界、何年も足しげく通い詰め、システム更新の際に顔を思い出してもらって、やっと商談にこぎ着ける世界だ。そのため、短期的な実績評価では社員のモチベーションは維持できない。中堅になると同期でもボーナスで数カ月差がつく実力主義だが、野田会長が「種」と呼ぶ入社6~8年までの社員には、受注獲得の数字は問わない。PRセミナーの案内電話を何件かけたか、システム障害時にどう対応したかなど、プロセスを徹底的に評価する。それも、上司が部下に話しかけ、「社員を気にかける」風土があってこそ。日々のコミュニケーションから浮かび上がる社員の働きぶりを評価するのだ。

そうした中で、社員の間ですっかり定着したのが、野田会長の「お散歩」だ。毎日全フロアを巡回し、「今、何しとるんや」「この書類は無駄やないんか」と、社員一人ひとりに声をかけて回る。

コミュニケーションを最重要視する姿勢は、ほかの役員にも浸透している。「かつて受注を取ったときに『よくやった』と会長から直々に電話をもらったときの私自身の喜びが部下に接するときの原点」と話すのは橘昇一副社長。ほぼ毎朝、本社横にあるスターバックスで出勤する社員を観察。目に留まった社員の許へ始業後に、直接出向く。その数1日に200人以上、もちろん昼食時も社員とテーブルを囲む。

さらに、営業の際の創意工夫を部門ごとにヒアリングし、副社長賞として毎月表彰する。「営業は断られることが多いつらい仕事。そんなとき、たとえ結果は出ていなくてもプロセスは正しいんだ、と評価されれば、社員は頑張れる」(橘副社長)と、社員との対話に時間を惜しまない理由を語る。

創業者でもある野田会長は、高校卒業後、近鉄百貨店で企業向けの事務機器販売を行っていた。働きながら大学の二部(夜間)で学んだが、「営業成績がよくても夜学卒というだけで評価されなかった」など、当時の百貨店の体質に嫌気がさし退職。その後、海外事務機器メーカーの営業マンを経て、1968年に三菱電機系列のオフィス向けコンピュータ・ソフトの販売代理店として独立した。

創業当初は、門前払いが当たり前の過酷な営業に、人材が定着せず悩んだ。会社の成長は人材の成長がすべて、と痛感したことから、中途採用はせず、新卒をゼロから育てるという手法にたどり着いた。

現在の好業績に至る転機は、98年の「ウィンドウズ98」の登場による、ハードメーカー間の互換性向上だ。従来はNECの「PC−98」が強力な牙城だったが、どのメーカーでも同一ソフトが利用可能になった。そこで現在の主力である業務用パッケージソフトを開発。企業ごとに開発する手間が省け、「ほとんど利益がなかった」(野田会長)ソフト販売が高利益体質に変貌し、2000年に念願の東証一部上場を果たす。

そしてトップが社員に気軽に声をかける風土が、現在のような形で徹底されるようになるのにも、あるきっかけがあった。

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