恐慌時には通用しない中央銀行の金融政策

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 さらに、中央銀行の最優先事項は、物価安定の守護神としてではなく、むしろ金融システムの安定性と健全性を維持する守護神としての信頼性を維持することに移ってきている。この最優先事項が達成できて初めて、経済を完全雇用に維持する政策に注意を向けることができる。

ただ、原則の一つは今でも有効である。それは、中央銀行は失業率が上昇する懸念があるとき、資産価格を引き上げることで経済を完全雇用に近い状況に維持する努力をすべきであるということである。しかし、現在、中央銀行は単なる伝統的な公開市場操作以外に、非常に多くのチャネルと手段を通して資産価格に影響を与えている。また中央銀行は、デュレーション(債券価格の変動率)だけでなく、リスクやデフォルト情報を織り込んだ割引率にも影響を与えるように努めている。

ただ、そうした中央銀行の行動は十分であるとは認められなくなっている。なぜなら同時に財政刺激策も必要だからである。“非恐慌時の経済学”においては、中央銀行の政策手段が十分に強力で、その意思決定は議会よりも効率的かつ技術的であるという前提に立って、財政政策の発動を回避すべきだということになるのだろう。しかし、現在観察される経済状況の下では、こうした考えを支持することはできない。

中央銀行は今でも銀行に対する取り付けを阻止するために市場に介入する準備をしている。しかし、現在、金融規制を行う前提条件を支持する人はほとんど存在しないだろう。51年から70年までFRB(連邦準備制度理事会)議長の職にあったウィリアム・マーチンがこんな発言をしていた。すなわち、良い中央銀行は「パーティが始まる前に酒を引き揚げる」ことで過剰な投機を阻止することができるというものである。

Brad Delong
1960年生まれ。ハーバード大学で経済学博士号を取得。93~95年に財務副次官補として93年度予算、GATTウルグアイ・ラウンド、医療制度改革に携わった。97年から現職。政治・経済のブログ「Brad Delong Semi−Daily Journal」でも有名。

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