空腹について 雑賀恵子著

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空腹について 雑賀恵子著

空腹という状態は肉体的精神的社会的にどう分析されるだろうか。かねてそう思っていたら、そのものずばりのタイトルの本が出た。空腹についての脳神経学的解説が初めにちょっとあって、後は味覚、飢餓、残飯、食人、肉食、貧困などと話は広がっていく。

残飯については、江戸から明治にかけての風俗、社会経済事情という点で興味深いが、昨今の状況がもっとあれば現代的意味が深まったろう。飢餓では、特に日本軍の兵站にかかわる話が詳細に語られる。具体的に列挙される日米の軍用食メニューの差など、これだけでも日米戦の帰結は一目瞭然なことがわかる。

などと空腹をめぐる著者のうんちくは広がるが、体系的に語られるわけではない。晦渋な哲学的表現についていくのに苦労するところはあるが、数々の具体例は食の貧困化と飽食が交錯する現代において示唆的である。空腹を論じる以上、意識的な絶食の世界も論じたら面白かったろう。(純)

青土社 2310円

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