(第3話)舞妓さんの「多面的な気遣い」を育む言葉

西尾久美子

●お目だるおした

 お座敷で日本舞踊を披露した後、舞妓さんたちは丁寧にお辞儀をし、部屋からいったん下がってしまいます。そして、再びふすまを開けて、扇子を置き座り直して、「お目だるおした」と挨拶をします。最近ではほとんど使われなくなった「目だるい」という言葉をお茶屋さんで聞いたとき、私は久しぶりで懐かしいと思うと同時に、はっとしました。

 明治生まれの祖母と一緒に暮らした私は、舞妓さんが口にする「お目だるおした」という意味がよく理解できます。「うちがさっき披露させてもろうた舞は、お客はんにとっては見てられへんほどひどいものどした」と謙遜し、改まって挨拶したのです。

 そして、「見てもらえへんようなレベルの芸事をよう見てくれはって、おおきに」、ということも彼女たちは伝えています。芸事がわかっている地元のお客であっても、初めて舞妓さんを見る海外のお客であっても、見る側の目利きの技量に関係なく、あくまでも謙虚に構えます。その上で、技能発揮の場をもらえたことにも感謝しているのです。

 舞妓さんとしてデビューするためには、日本舞踊のお師匠さんからお許しを得なければなりません(試験があります)。ですから、本当は彼女たちの舞が「目だるい」はずがありません。彼女たちはもてなしの現場で舞を披露するプロとして、料理屋さんの金屏風の前でも、お茶屋さんの三畳の板の間でも、洋風の宴会場に敷物を敷いただけの場所でも、いつどのような状況でも、一定レベル以上の技能を見せる技量と、その責任を自覚するプロ意識をもっているのです。

 そんな彼女たちが、新人のときはもちろん、何年経験を積んでも「お目だるおした」ときちんと言葉にするのは、自分が技能を発揮できることを素直に喜びつつも、上には上があることを自覚して、他者の視点で自分の技量を見ようとしているからです。自分の技能に自信をもつ一方で、絶えずそれがお客にとって価値あるものかと考える、そんな多面的な心遣いが、毎日「お目だるおした」と口にすることで、自然と身につくようになるのです。

舞妓さんは襟足のお化粧も独特。通常は2本に描くが、特別な行事の際には3本に描く。
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