超崖っぷちに立つ「地銀」に欠けている視点 「Big is Excellent」の時代は終わった

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金融庁がその必要性を繰り返しているのは、監督官庁として、持続可能なビジネスモデルが構築されたとは考えられないという意見表明でもある。

地域金融機関の場合、金融事情は共通であっても、立脚基盤である地域の特性には相違点があり、一律に語ることはできない。しかし、極寒の環境は全国的に訪れている。ましてや、それに重なるように、デジタル技術を駆使して新たな金融サービスをバーチャルチャネルで提供するフィンテックプレーヤーが雨後のたけのこのように出現し始めた。経営環境は競争条件という面から、過去になかったほどに複雑化してきている。

「Small is Necessary」という価値観

はたして、この先、伝統的な金融業はどうなっていくのか――。そのカギを探り出さないといけないタイミングである。この観点から、注目され始めているのが、一部の信用金庫・信用組合の取り組みにほかならない。

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わが国は長らく、高度成長を続けてきたなかで、規模の大きさが最優先される価値とみられてきた経緯がある。成長願望が規模の大きさに対する憧れと、「規模こそ正しい」という価値観を生んだとも言える。そうしたなかでは、信金・信組などは中小金融機関と言われて、格下のように扱われてきた面があることは否定できない。しかし、大きな経済、社会的な変革が訪れるたびに、既存の価値観は崩れ去り、新たな価値観が築かれる。

1930年代の金融恐慌は多大な社会的犠牲を生んだが、不透明で業者の利益の場でしかなかった金融に庶民の感覚が初めて導入される契機ともなった。その事実をエコノミストの三國陽夫氏は「清濁併せ呑むという『業者の世界』から生真面目に正邪に黒白をつける『大衆の世界』へ時代が変わった」と、自著『市場に聞く! 日本経済・金融の変革』(東洋経済新報社)で記している。おそらく、このような劇的な価値観の再構築がこれから起きるのである。

実際、欧米では2008年9月に発生した巨大な金融危機であるリーマン・ショックの後、わが国の信金・信組などの理念型の経営形態である協同組織金融機関に相当するクレジット・ユニオンへの評価が、過去にもまして高まっている。そのエッセンスは、小規模の金融機関ほど、利用者に密着して、利用者とともに生きているということへの再評価にほかならない。

「Big is Excellent」かもしれないのだが、「Small is Necessary」でもあるという価値観ではないか。庶民にとっては、Excellentよりも、日常役に立ち、信頼できる金融機関のほうが大切であることは言うまでもない。

このような激変期のなかで、自身のレーゾンデートル(存在理由)を再確認し、その依って立つ価値観は何かを見極めたプレーヤーが、次の時代に挑戦する権利を得るように思えてくる。意欲的に活動する信金・信組は、それを端的に自身の行動で物語っている。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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