得意の「突破力」発揮の前に「名ばかりの首相」で終わる可能性

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得意の「突破力」発揮の前に「名ばかりの首相」で終わる可能性

塩田潮

 1月29日の衆議院での代表質問で、細田自民党幹事長の「渡りをやめると言って」という問いかけに、麻生首相が「今後は認めない」と答えた。
 「渡り」は辞めた国家公務員が役所の斡旋で再就職を繰り返す行為だが、全面禁止に踏み込めずにいた首相に細田幹事長が助け船を出した出来レースの印象が強い。首相は「渡りに船」とばかりに姿勢を変えた。
 禁止の明言が遅れたのは、根っこの官僚依存体質のせいだろう。だが、もう一つ、「発言がぶれる」という不評も気になったのではないか。内閣支持率は危険水域を低迷中で、首相の求心力が急低下している。

 総選挙を経ない「民意の支持なし首相」、ねじれ政局下での「何も決まらない政治」に無策・無力、国語力不足など「尊敬されない指導者」という評価などと合わせて、発言にぶれが多く、「言葉が軽い首相」というマイナス・イメージも大きな原因である。就任後4ヵ月で、定額給付金を筆頭に、集団的自衛権の解釈、日本郵政の株売却、道路特定財源の一般財源化、「医師の社会的常識」発言など、右往左往、二転三転、前言訂正のオンパレードだ。臨機応変なら文句はないが、首相として内外の情勢の正確な把握、認識に難があり、確固たる信念や識見も希薄と映る。

 それ以上に重要なのは、首相でありながら、実質的最高権力を掌握していないと見られる点だ。そのために自ら政権をコントロールできない。与党も官僚機構も思いどおりに動かせない。難問を解決できず、苦境を打破できない。首相のセールスポイントは「突破力」と同じ派の鈴木元文科相は語っているが、錆ついたままだ。無定見や経験不足も大きいが、最高権力者でなければ使えないパワーと武器を十分に活用していないため、実質的権力を手にできないのだろう。

 唯我独尊は御免だが、権力の使い方と動かし方の修得を急がなければ、得意の「突破力」を発揮する前に「名ばかりの首相」で終わる可能性がある。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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