過去60年は“不幸な成功” 自由闊達と自分勝手は違う--中鉢良治・ソニー社長

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過去60年は“不幸な成功” 自由闊達と自分勝手は違う--中鉢良治・ソニー社長

イノベーション力、ものづくり力でかつての輝きを失ったかに見えるソニー。復活の目はあるのか。エレクトロニクス事業を統括する中鉢良治社長を直撃した。

--前期のV字回復から業績が暗転。世界的な工場統廃合と大規模な人員削減に着手しました。

急激な需要減と為替変動で収益力に大きなダメージを受けた。これを立て直すには、在庫の圧縮でキャッシュサイクルを短くし、損益分岐点も下げなければならない。需要と為替の急激な回復が期待できない以上、当座はこの2点が必要です。

--2011年3月期に営業利益率5%、BRICsでの売上高倍増などの中期目標は変えませんか。

ゴルフに例えて言うと方向感に間違いはない。ただ先進国がマイナス成長に陥り、新興国も高額商品を買うほどの経済力がまだない。この環境では、ソニーの成長鈍化はやはり考えなくてはいけない。現状では、新興国の中間層がわれわれの商品の購入層になるという当てがやや外れています。日本企業の得意な高付加価値品が必ずしも高い価格で売れていない。高性能イコール世界のニーズではなくて、国と地域に応じた商品企画が今まで以上に求められています。たとえばインドでは、地域モデルとして展開している、ウーファー(低音域スピーカー)搭載の液晶テレビが思わぬヒットになりました。

--これまでは高性能こそが付加価値と考える面があった……。

そうは言いたくないですが、確かにそういう一面があったことは否めないでしょう。そして、(性能での他社製品との)差別化が難しくなってきています。

--他社とは一線を画するヒット製品が、かつてのソニーからは数多く生まれました。自由な風土から出たアイデアを目利きのトップが見いだし、製品に磨き上げる好循環があったからだと言われますが、この循環はもうないのでしょうか。

それはよく言われることですが、実際にはトップがすべての開発を見て決めているわけではありません。組織でやっています。今問題なのは、ソニーが他社に劣らない額の研究開発費を投入しながら、相応の利益を出していないこと。開発効率、つまり研究開発投資をキャッシュに換える効率が非常に悪いということです。これ以上、自由闊達を自分勝手と取り違えてやるのはいかがなものかと考えています。

“ノット・インベンテッド・ヒア(NIH症候群、自前主義)”的な考え方や自由勝手な状態から、もっとオープン化しないといけない。業界で必ずしもトップに立っていない、リードしていないものがあれば、その事実を認めて、技術を外部から買うなりして早くキャッチアップすべきなのです。あまりにもソニーの過去の「不幸な成功」と言いますか、そういうところだけが注目を集めすぎてきました。たとえばウォークマンがあったでしょうと伝説的に言われますが、あのやり方ではもうやっていけない。ウォークマンはそのものがいわば業界の国際標準でした。しかしデジタル時代の今、アップルなど、楽曲データの方式がいろいろあるわけです。

社員が何の開発をしているかわからない、いつ会社に来るのか、いつ商品になるのかもわからない。これで給料がもらえますかね。5年、10年経っても成果が出ないからやめろというと、「この研究を切るのですか、大変なことになりますよ、ソニーらしさがないですね」と言う。そんな中で赤字を垂れ流して、ステークホルダーの期待に応えられますか? もしそういうものすごい自由闊達な会社があるのなら教えてください。ベンチマークにしますよ。

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