日本は景気回復に向け大胆な財政支出が必要だ

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 減税の効果は統計からも確認できる。それは民間部門の総所得(賃金、利子所得、賃貸料、配当などの合計)と可処分所得(所得から税金を控除し、年金や失業保険などの移転所得を含めた額)が支出に与える影響の比較である。減税に効果がないのなら、支出と総所得、可処分所得は同じ相関性を示すはずだ。だが実際はそうではなかった。07年3月の全所帯の総所得は10年前よりも2%減少した。しかし、減税と移転所得の増加額が97年の増税額を上回ったため、実質可処分所得は約6%増加し、支出も約10%増えている。支出増が可処分所得の増加よりも大きかったのは、家計部門の貯蓄率が11%から3%に低下したからである。財政政策に対する懐疑派の主張が正しければ、貯蓄率は同じ水準にとどまるか、若干上昇していたはずである。

専門家は、人々の所得を増やす最も効果的な方法として、1回限りの戻し税、一時的な消費税の引き下げ、または失業保険給付の増額などをめぐって議論をしている。ポイントは、いずれにしても所得が増えると、人は増加分の大半を支出するということである。

通説(4) 日本は巨額の財政赤字を抱えているので、財政刺激策を講じる余裕がない。

真実 日本の純債務残高はGDPの90%と史上最大の水準に達している。イタリアを除くG7の中で同規模の財政赤字を計上している国はない。97年には純債務がGDPの35%で、G7ではドイツの次に低かったのだが、それでも消費税率の引き上げをめぐって同じ議論が行われていた。

中期的な財政の持続性を維持する最も重要なことは、債務の絶対額の水準ではなく、債務返済比率(利払い)の水準である。09年度の利払いはGDPの2%弱と、80年代央の3%よりも低いが、これは現在の金利が低いからである。当面、金利は低水準にとどまると予想され、財政政策を発動する余地は大きい。

国際的な債権者で資本流出の懸念がない国では、政府の過剰な債務がもたらす危機とは、中央銀行が債務の貨幣化を強いられること、すなわちインフレの発生である。日本の最大の危機がインフレであると信じる人がどれだけいるのだろうか。

リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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