日本の観光業は「生産性向上」最高の教科書だ 令和ニッポンの勝算と課題は「観光」でわかる

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実際、数年前に28軒だった5つ星ホテルの数は、現在32軒まで増えていますし、いくつか新たに建設されている最中です。

5つ星に準ずる4つ星のホテルも増えていますし、高い単価の部屋を備えた施設も増加しているので、ホテルの単価は徐々に上昇する傾向が顕著です。5つ星ホテルは、数が多いこと自体も重要ですが、日本国内に宿泊単価の「ピラミッド構造」ができていることの象徴として、より大きな意味があります。

しかしながら、5つ星ホテルはバリ島に42軒、イタリアには187軒、フランスは127軒、タイでも112軒もあるので、日本ではもっともっと増えてもおかしくない、というか、増やすべきです。

しかし日本では、いまだに単価の安いホテルを増やす傾向が強いです。本当はホテル業界が訪日外国人の潜在ニーズをしっかりと市場調査して、懐具合にそって差別化されたホテルを作るべきです。安いホテルから高いホテルまで、階段状に整備することで、収入を最大化するチャンスが目の前にあります。

にもかかわらず、長年の不況によるマインドの冷え込みと、元から問題視されている日本の民間企業の調査・分析能力の弱さがボトルネックとなり、安いホテルの建設が非常に多いのです。これは非常に「もったいない」と言えます。

「働く人の給料」を上げることが地方創生につながる

現状5つ星ホテルが少ないということは、伸びしろが大きいとポジティブに捉えることもできますが、ホテル事業者に一層の奮起を促したいところです。

ホテルの単価が上がれば、同じ宿泊業でも、労働単価を高く設定し、生産性を劇的に上げることができるので、国の生産性向上にも貢献します。

言うまでもありませんが、それによって、そのホテルで働いている従業員の給料が上がりますので、本当の意味での地方創生となります。

今回は直近の実績を検証してみました。次回は、日本の観光業界のさらなる発展のための課題を考えます。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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