甲子園優勝監督のシンプルでしつこい指導法 前橋育英・荒井直樹監督のリーダーシップ(上)

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モットーは「シンプルにしつこく」

一方、雷を落とすのは、エラーの処理が間違っていたときだ。

「僕はシビアな目で見ている。エラーして、『てめえ、何やってるんだ!』と怒るコーチが、走者に全力で走らないことを指摘しないと、『何をやっているんだ』と思う。一生懸命やったミスを怒るのは、いじめと同じ。でも手抜きや、全力でやらないのは許されないこと。僕が怒るのはそういうところ。エラーしたボールをすぐに拾いにいけば、絶対に怒らないと決めている。取り組む姿勢を積み重ねていくことで、変わっていった経験が自分にもあるから」

荒井のモットーは「シンプルに、しつこく」。小学生でも理解できる言葉で、高校生にわかりやすく伝えるようにしている。いすゞ自動車時代、多くのコーチに様々なことを言われ、投げ方も打ち方もわからなくなった経験がある。だが、二宮の単純明快な説明ですべてのモヤが消え去った。

投手に技術指導する際には、「手から先のことは言わない」ようにしている。

「下半身の動きや全体のバランスについては話すけど、『手をこう使え』とは基本的には言わない。手のことを言われて、潰れる選手をどれだけ見てきたことか。手にはその子の持っている感覚があるし、細かく言いすぎてもうまく伝わらないと思う。コーチって、教えていないと何もしていない感じになる。だから教えすぎてしまう。でも、自分の感覚だけで『お前はこうなっているから、こうやれ』と言うのは違う気がする。もっと、ジーっと見たほうがいい」

自然と技術を身につけるコツ

プロ野球の世界でも、コーチにフォームをいじられたために、力を発揮できぬまま去っていった選手は少なくない。「俺の言うことが聞けないのか!」。そんなセリフは、指導者のエゴ以外の何ものでもない。

選手のフォームが理にかなっていないと思うなら、理想に近づくように仕向けるのがプロの指導者というものだ。荒井が続ける。

「『こうやって打て』というのではなく、『こういう練習をすると、こういう技術が身につく』という方法を持っておけばいい。その練習を何度もやり続けていくと、自然と技術が身につく」

例えば、バッティングで脇の開くクセがある選手には、高めのボールを振る練習をさせることで、ヒジの使い方を習得させる。ドアスイング(=打つ際にバットの先端が下がり、スイングの輪が大きくなって遠回りの打ち方になること)の選手には、真上に投げたボールが落ちてくるところを振らせる。最短距離で振らないと打てないため、自然と悪癖が修正されていくのだ。

打撃の際には、下半身を強く意識させることで全体のバランスを取らせようとしている。

「指導者が『思い切り振ってこい』と言っても、打者はボールに合わせにいく。それは仕方がないこと。バットを持つのは手だから、そこに自然と神経がいくのは当たり前。だから、選手には『バットを持っている手に神経がいくのも、ボールに合わせようとするのも本能。合わせようとする気持ちが強いと手打ちになるから、下半身だけを使うくらいの意識でちょうどいいぞ』と話しています。そのほうが、自然と技術が身についてくると思う」

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