離婚問題のプロに聞く「ドロ沼化」を防ぐ方法 禍根を残さないために何をなすべきか

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――弁護士さんをやる気にさせるコツはありますか?

当たり前のことですが、信じて頼ってもらえると頑張ります(笑)。「信頼してます!」と口に出してみたらどうでしょうか。

逆に、自分の味方である弁護士に対してウソをつくことは論外です。例えば、「浮気をしていないです」と言っていたのに、裁判になってから相手方から決定的な証拠を提示されたらどうしようもありません。大事なことを隠されていると弁護の方針が完全に崩れてしまいます。

――最後に、中川さんが弁護士として離婚案件を引き受けるときの心構えを教えてください。

まずは依頼者の意向をしっかりと聞くことです。離婚をしたいのか、したくないのか。親権はどうしたいのか、相手からお金をもらいたいのか。意向の100%が通ることはレアケースですが、最初から「それは無理です」と言ってしまうと依頼者の心を傷つけてしまいます。

しっかり聞いて共感をしたうえで、裁判の現実もきちんと伝えます。「そんなにつらいことがあったら慰謝料は欲しいですよね。でも、慰謝料の支払いが裁判所で認められるのはこういうケースで、その場合にも何百万という金額は難しいです」と話せばわかっていただけることもあります。

そのうえで、依頼者が最低限ほしいものを見定めます。例えば、慰謝料は要らないけれど親権は絶対にほしい、養育費は月5万円は払ってもらいたい、というラインですね。私たち弁護士は必ず判決の予測をするので、事実関係を正確に把握できていれば、相手方の弁護士と見通しは大きくズレないはずです。

勝てる見込みがある場合は強気で交渉できますし、そうでない場合は最低限のラインをどうやったら守れるのかを考え、依頼者と相談をしながら妥協できるところは妥協します。依頼者に寄り添いつつ、見通しを立てて交渉する。それが私たち弁護士の仕事です。

「思いやり」が結婚生活を左右する

インタビューが終わった後、中川さんとはファッションの話などをした。学生時代から洋服が好きで、数年前に「顔タイプアドバイザー」というファッション関連の資格を取得したらしい。依頼者の人生を左右するような仕事をしているので、そうした息抜きも必要なのかもしれない。

個人的には「離婚することになっても、相手のために何かをしてあげることが大事」というお話が印象深かった。魚心あれば水心、なのだ。これは通常の結婚生活にも当てはまることだと感じる。

われわれ晩婚さんは、長い独身時代によくも悪くも固まった価値基準があり、結婚相手とは相いれないことも少なくない。だからこそ、折り合える部分では相手が楽になるようなことを積極的に実行すべきなのだ。

相手の食器も片づける、荷物を持ってあげる、といった小さなことでいいと思う。その心はきっと通じて、「性格の相違」などには笑って目をつむることにつながるだろう。熟年離婚予防のために、今日からできることは少なくない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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