《若手記者・スタンフォード留学記 22》スタンフォード学生も四苦八苦! 大不況下の「就職活動」

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 この例のみならず、アメリカは階級・格差社会である一方、家庭が裕福でない人間にチャンスを与える仕組みもあります。たとえば、アメリカ軍は、卒業後入隊することを条件に、多くの学生の学費を肩代わりしています。今の、不況、そして、就職氷河期は、アメリカの公共セクターにとっては、逸材を獲得する千載一遇の機会なのかもしれません。

日本より断然価値が高い、博士号

最後に、「博士課程に進学する」、というのも学生の有力な選択肢の一つです。

とくに不況期には、雨宿り先として、ビジネススクールを筆頭に、大学へと返ってくる流れが強くなります。日本でも、特に勉強は好きではないし、勉強したいこともないけど、就職浪人を防ぐため大学院に行く人もいます。が、当地では、博士課程となると生半可な覚悟では進めません。およそ、博士取得までに5年間かかりますし、学科によっては、成績の悪い学生は途中で退学を命じられます。

最近も、明らかに学者向きではないクラスメイトの一人が、博士課程進学を考えていると聞いて、苦笑してしまいました。しかしながら、本当に学問が好きで、突き詰めたいことがあるならば、アメリカで博士号をとるのは、結構、効率の良い投資になるはずです。奨学金の規模も大きいですし、学部生のTA(ティーチング・アシスタント)をすれば、学費がタダになる上、給料までもらえます。

日本では、就職面において、博士課程に進むメリットは薄いですが、アメリカでは博士号の評価は高い。実務家であれば、修士でも充分でしょうが、学問や研究の世界では、修士と博士は雲泥の差です。そして実際、一緒に授業を受けていても、博士課程の学生の優秀さをひしひしと感じます。レベルが違う。
 
 「この環境で5年間過ごしたら、思考のフレームワークから、知識量から、議論する力から書く力まで、徹底的に鍛えられるだろうな」という印象です。

今回の降って沸いたような大不況。就職活動に勤しむ学生には気の毒ですが、金融一辺倒だったアメリカ人学生にとって、改めて、本当に自分のやりたいことは何かを考える良い機会になるかもしれません。


佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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