(第4回)風邪・インフルエンザ対策法・その1

山崎光夫


 「風邪をひかない方法がある」
 ときいたのは小学五年生のときだったと記憶する。
 先生が教えてくれた方法。
 --風呂からあがるとき全身に水をかぶるといい。
 「何と乱暴な方法か」
 と驚いたものである。
 すると先生も、小学生向けには少し乱暴すぎると気がひけたのか、
 「水かぶりは急に始めてはだめだ。足元から徐々に慣らして全身にかぶるようにしなければならない。水かぶりが無理な者は水で絞ったタオルで体を拭いて湯からあがる方法でもよい」
 と付け加えた。
 水タオル式ならできると思いわたしはただちに実行に移した。それまで毎年のように風邪をひいていたし、もともと丈夫な体ではないので、予防するに越したことはないと考えたのである。

 当時--昭和三十年代の東京は寒かった。銭湯からの帰り道、濡れたタオルをぶら下げて帰ると、家に着くころには、タオルは凍りついていた。タオルを回転させて下の端を上にしても棒のようにピンと立って折れ曲がらなかった。最近は銭湯と縁はないが、夜でもこれほどの寒さはないから、温暖化の波はこんなところにも見られるようだ。
 タオルが凍る東京の冬だったが、銭湯帰りの体のほうはまだまだ温かかった。これは湯上がりの水絞りタオルの効果によるものと思われる。

 先生の教えのお蔭で、その後あまり風邪をひかなくなった。
 体験上、水タオルの効果は絶大だった。
 「バカは風邪をひかない」
 というが、わたしの場合は、
 「水タオルで拭くバカのひとつ覚えで風邪をひかない」
 となったようだ。

 いまになって水タオルの効用を検証すれば、冷たいタオルが毛穴を閉じて保温効果を上げたようだった。熱の放散をシャットアウトするのである。また、水の刺激で皮膚が鍛えられたといえるだろう。

 以前、皮膚科の教授を取材したとき、素手で鍛えられる臓器は皮膚だけ、ときいたものだ。確かに、心臓を鍛えようとしても素手で直には心臓に触れない。さらに教授は、皮膚を鍛えれば免疫力が上がり、あらゆる病気の予防になると助言してくれた。皮膚を鍛えれば無病息災につながるのだった。皮膚を鍛えるといっても、トライアスロン的な過激な運動は必要ない。皮膚を刺激するだけでよいというのである。

 教授の助言に、件の小学校の先生がはじめに話した、全身に水をかぶるといい、の言葉を思い出した。そこでわたしは風呂からあがるとき水をかぶることにした。先生が教えた、足元から徐々に慣らして全身にかぶるようにした。夏に始めて、冬場も続けた。シャワーという便利な道具も利用した。現在は、365日の習慣となっている。真冬など、水をかぶった当座は冷たいが、あとで感じる温もりは爽快である。

 この四半世紀ほど風邪をこじらせて寝込んだことはない。万病の元の風邪からサヨナラできるのは、病気などしていられないわたしにとっては助かる。
 さらにわたしは風邪・インフルエンザの予防法として三つのものを用いているが、それは次回に書くことにする。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷(ドンネル)と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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