4兆円の統合計画を撤回、ジリ貧を脱せない医薬卸

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4兆円の統合計画を撤回、ジリ貧を脱せない医薬卸

売上高4兆円企業の夢は、わずか3カ月で頓挫した--。

医薬品卸最大手のメディセオ・パルタックホールディングスと同2位のアルフレッサホールディングスが、今年4月1日に予定していた経営統合を取りやめた。公正取引委員会による審査が両社の想定以上に時間を要し、統合が遅延するのを「大きなリスク」(メディパルの熊倉貞武社長)と判断したためだ。

統合によって誕生するはずだった新会社は、業界シェア5割にも上る。独占禁止法に抵触するのではないかという懸念は、昨年10月の統合発表時からすでにあった。ところが、両社ともそれを楽観視し、審査も4月には間に合うと踏んでいたという。

医薬品卸業界において、4月は顧客である医療機関との年間契約交渉が始まる重要な時期。「あやふやな状態で交渉を進めたくなかった」とアルフレッサの渡邉新社長は説明する。実際、両社ともに取引のある病院から、コスト削減を理由に「統合するのなら、どちらか1社に絞って交渉を始めたい」との声があったという。統合が4月に間に合わないことを「大きなリスク」と語った理由はそこにある。

だが、統合自体を白紙撤回する理由としてはあまりにも安直だ。

シェア拡大戦略も限界

ここ10年、医薬品卸業界は薄利体質から抜け出せず、ジリ貧の一途をたどってきた。売上高2兆円を超える首位のメディパルさえ、営業利益率は1%を切る。これまでは度重なるM&Aでしのいできたが、大手はすでに4社に集約。拡大戦略も限界を迎えていた。その意味で、今回の統合計画は大胆な構造改革が意図されたものだった。全国に流通ルートを持つ2社が一緒になれば、拠点は半分で済む。「リストラは当然考えていた」(渡邉社長)。

巨大卸への変身は、取引先に対する価格交渉力の増大という点でも期待されていた。大手病院など医療機関は、卸に対して強い値下げ圧力をかけてくる。卸側は、競合他社が安い値段をつければ、さらに安値を提示するしかない。拒めば取引停止を持ち出されることもあるくらいだ。

こうした両社にとって、今回の統合計画はいわば「頼みの綱」であったはず。社員の一人は途方に暮れてこう漏らす。「1位と2位が合併しなければ生き残れないような状況だったのかとあらためて認識し、危機感を覚えていたのに……」。

両社は今後「仲のよいライバル」(熊倉社長)として各自の道を進むというが、はたしてそこに道があるのか。泥沼の消耗戦が待ち受けているのは明らかだ。

(前野裕香 =週刊東洋経済)

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