改革派の急先鋒だったのは浅はかだった--懺悔の書『資本主義はなぜ自壊したのか』を書いた中谷巌氏に聞く

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改革派の急先鋒だったのは浅はかだった--懺悔の書『資本主義はなぜ自壊したのか』を書いた中谷巌氏に聞く

細川内閣、小渕内閣で経済改革の旗振り役を担った中谷巌氏が「懺悔の書」を刊行した。なぜ転向したのか。その真意を聞いた。

--本書のまえがきに「自戒の念を込めて書かれた『懺悔の書』」とあります。

短絡した軽薄なものの考え方がまずかった。新自由主義的な、市場至上主義的な、あるいは改革派の急先鋒的な自分の行動に対して、それは浅はかであり、社会全体、あるいは人間の幸せとはと、考慮すべきだった。犯罪を犯したわけではないし、そのときそのときに必要なことを言っていたと思うが、配慮が足りなかった。たとえば貧困層がこんなに急激に増えていくことに気づかなかった。多様な目線を持っていないと、バランスの取れた政策は議論できないという反省がある。

小さい政府や自己責任をただ求めれば、日本社会がうまくいく、さらに経済成長がうまくでき、国際競争力もつく、そういう考え方は間違い。そう考えるようになった。一方的な新自由主義信奉者ではなくなったという意味だ。

--ここしばらくあまり表舞台に登場されませんでした。

私の中に変化が起きたので、この7~8年むしろ意識的に発言を控えてきた。小渕内閣の経済戦略会議に参加した後、アメリカ流の構造改革を推進することが日本社会にどういう影響を及ぼすのか見定めたいという気持ちになった。それまで積極的に改革をやるべしと言ってきた人間なのだから、無責任に違うことを言ってはダメだなと思い、新たに勉強を始めた。

講座を持つ多摩大学で、40歳代CEO育成講座というリーダーシップ論をやっている。ここを一つの根城にして、歴史、哲学、文明論、宗教など、いわばリベラルアーツを中心にカリキュラムを組み、私も生徒になった気持ちでその辺を徹底的に勉強することにした。

というのも、アメリカで経済学を勉強して経済学そのものについては体系的にしっかり頭に入っているが、合理性の世界の経済学だけで政策や社会を論じ、描いていいのかという気持ちになった。人間はそんなに合理的な存在ではない。ロジックだけでは抜け落ちるところがあまりに多い。それと現実に日本社会で起こっていることを観察し、じっくり考えをまとめてみたいとも思った。この本はまだ「中間決算」だが、勉強に8年かかった。

--今回の世界的金融危機が執筆動機ではないということですね。

リーマンショックのかなり前から、半年ぐらいかけて書いた。日本社会のおかしいところが目につきだして、それを理論的に分析してみたいと思い立った。

マーケットメカニズムについて言えば良い面と悪い面がある。それをきちんと考慮しないでそのメカニズムにどんどん組み込めば問題は解決するようなことを主張して、まずい方向に引っ張りすぎてしまった。マーケットを否定しているわけでは毛頭ないが、行き過ぎたために恐慌に似たような状況をつくり出し、貧困が増大するなど所得格差が拡大し、それに環境破壊の問題が激化した。グローバル資本主義の正体をしっかり分析して、良い点もあるが、まずい点はきちんと手当てしないと副作用が大きすぎることを、この本で一所懸命書こうとしている。  

--目についたおかしいところとはどういうものですか。

たとえば財政投融資の改革で、郵貯のおカネが自動的に道路建設に行くのを遮断したことは、いまでも高く評価しているし、必要だったと思う。だが郵政改革では、人の減った過疎地で郵便局が唯一の人間的接触の場所になっているところまでばっさり廃止してしまっている。こうしたことにどれほどの意味があるのか。

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