減反廃止は名ばかり、迷走を続けるコメ農政 転作補助金を残したまま強いコメ農業は作れない

拡大
縮小

減反が続く本当の理由

減反は大規模農家の生産拡大・効率化を阻害するだけでなく、消費者には二重の負担を強いている。補助金という財政負担(税金)と、高いコメを買わされる家計負担だ。

転作補助金の拡充で財政負担がさらに増える可能性もある。13年度のコメ関連予算は4200億円で、内訳は戸別所得補償1700億円、転作補助金2500億円。前出の山下氏は、「飼料用米や米粉用米への転作が増えれば、転作補助金は2倍以上に膨らむ」と見る。戸別所得補償が廃止されて、コメ関連予算が減るのかには疑問符がつく。

千葉県柏市で作業受託分を含む約90ヘクタールの田んぼを抱える農業生産法人、沼南ファームの橋本英介取締役は、「転作補助金もなくし、自由に主食米を作らせるべきだ」と訴える。補助金の廃止でコメの価格は今より下がるが、「小規模農家が農地を手放すのでそれを借り受け、経営をさらに大規模化して競争力を高められる」(橋本氏)。

減反政策が事実上、継続・強化される背景には、農協、農水省、族議員という既得権者のトライアングルがある。小規模だが豊かな兼業農家の預金を元手にしたローン、共済などからの金融収益は、農協の主要な経済基盤で、組合員農家の数がそれを支えている。農水省にとっても農家の数は予算獲得におけるパワーの源泉であり、族議員の議席もまた、得票数は農家数に依存している。こうした「数」への依拠が、小規模農家の退出と大規模農家のさらなる拡大を阻んでいる。

転作補助金もなくして、コメの生産を完全に自由化すれば、増産による価格低下と大規模農家への生産集中によるコスト低下が同時に起こる。そこで生産の原動力となる一定規模以上の主業農家に限って、価格低下による所得減を補償する直接支払制度を設けておけばいい。

既得権者のトライアングルを温存する、うわべだけの農政改革では、コメ農業の体質強化は望むべくもない。

(12月24日発売の週刊東洋経済2013年12月28日-2014年1月4日新春合併特大号 核心リポート01)

柿沼 茂喜 東洋経済 記者

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かきぬま しげき / Shigeki Kakinuma

入社以来、一貫して記者として食品・外食、金融・証券、電力・ガス・石油、流通、精密機器、総合電機、造船・重機などの業界を担当。この間、『週刊東洋経済』『会社四季報』『金融ビジネス』の各副編集長、『株式ウイークリー』編集長、編集局次長などを経て現職。

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