人は働いて幸せを知る 日本理化学工業会長・大山泰弘氏①

✎ 1〜 ✎ 24 ✎ 25 ✎ 26 ✎ 最新
拡大
縮小
おおやま・やすひろ 1932年東京生まれ。チョーク製造の日本理化学工業会長。中央大学法学部卒。父親の経営していた同社に入社し50年以上実質的な経営に当たる。同社は知的障害者を積極的に受け入れ、心身障害者多数雇用のモデル工場となっている。

私が会長をしている日本理化学工業は、チョークを製造する従業員74人の会社です。昭和12(1937)年に父親が創業しました。川崎と北海道・美唄(びばい)に工場がある、ありふれた中小企業ではありますが、よそにはない特徴があります。それは従業員のうち55人が知的障害者だということです。

 うちの会社では知的障害者も生産ラインで一人前の労働力として働いています。障害者に作業方法を教え込もうとするのでなく、障害者の能力に合わせて作業環境を改善すれば彼らも立派に働いてくれます。チョークという小さな市場ですが、日本理化学は国内シェアが3割あって、業界トップを維持しています。

働くことは自分のため、人のため

障害者を雇うようになったのはまったくの偶然です。今から49年前、当時は東京・大田区に工場がありましたが、近くの養護学校の女の先生が訪ねてきました。中等部を卒業する2人の女生徒を受け入れてもらえないかという依頼でした。その先生は「子どもたちは、このままでは働くことを知らずに一生を終えることになります。何とか雇ってもらえないでしょうか」とおっしゃいます。

しかし私自身、福祉や障害者のことなど何も知りません。「お気持ちはわかりますが……」とお断りしました。が、何度も訪ねていらっしゃいます。子どもたちの境遇と先生の熱心さに打たれ根負けするような形で、1週間の実習だけならと、受け入れたのがきっかけです。ちなみにその2人は正社員として入社し定年まで勤めてくれました。

障害者を雇うようになって数年経っても、彼らがなぜ喜んで工場に通ってくるのか、私は不思議でなりませんでした。工場で働くよりも施設で暮らしたほうが幸せではないかと思っていました。言うことを聞かないため「施設に帰すよ」と言うと、泣きながら嫌がる障害者の気持ちがわかりませんでした。

そんなとき、ある法事で禅寺のお坊さんと席が隣合わせになり、その疑問をぶつけたことがありました。するとそのお坊さんは即座に「幸せとは、1.人に愛されること、2.人に褒められること、3.人の役に立つこと、4.人に必要とされることです。愛はともかく、あとの三つは仕事で得られることですよ」とおっしゃったのです。私はその言葉に深く納得しました。

働くことは自分のためであるが人のためでもある。企業が利益を追求するのは当然ですが、同時に社員が幸せを求める場でもあると考えるようになりました。

週刊東洋経済編集部
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT