「データ苦手な人」には経営者になる資格がない これから「生産性向上」には逆風が吹き始める

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一方、日本ではいまだに多くの経営者にとって、経営は「アート」のままです。「俺はそう思わないから」という根拠のない理由で、物事を判断する経営者がまだまだいます。国にいたっては、evidence based policy makingに必要不可欠な統計があのような状況です。最近になるまで統計の誤りに気づくことができないほど、データを大切にしてこなかったのでしょう。

アートという言葉は「芸術」と訳されることが多いので、なんだかすばらしいことのように感じるかもしれませんが、データを無視した感覚だよりなので、こと現代の企業経営にはそぐわない古い考え方なのです。

人口が激増している時代は、管理さえしっかりとやれば、誰が経営者になっても成功する可能性が高い時代でした。アートでもなんでもよかったのです。その成功体験を引きずって、「時代の幸運」を自分の経営手腕だと勘違いしている社長が多いと感じます。

しかし人口減少時代には、もっと高度な経営が求められているのです。

意見を言う前に、データに当たろう

『日本人の勝算』を書きながら、海外と国内の分析・調査・検証のレベルの違いを改めて認識しました。118人のエコノミストの書いた論文やリポートに目を通したのですが、海外では経済の動向や経済政策が徹底的に検証されていることを痛感したのです。

例えば、最低賃金に関する論文を探して検索すると、腐るほどの数の論文が発表されていることがわかります。加えて、最低賃金を分析した一つひとつの論文を集めて、コンセンサスや分析の偏重をさらに分析したメタ分析もされています。

それに比べて、日本では最低賃金の引き上げを提案すると、「最低賃金を上げたら、韓国のようになるぞ」とか、数パーセントの従業員にしか影響しないのにもかかわらず、「中小企業の大量倒産が起きるぞ」といった、実に幼稚な反論が返ってきます。

しかも、こういう幼稚な反論が、経営者や社会的に影響力の大きい人からも上がってくるので、いつもびっくりさせられます。

本来であれば、最低賃金をいくらあげたら、何パーセントの労働者に影響が出て、どのくらいの数の企業が、どういう影響を受けるかを分析し、議論するべきところです。しかし、極論、感情論、感覚的な反論が多いので、議論が一向に建設的になりません。

一般の方がこういう反論をしてくる分には気にもなりませんが、経営者や社会的に影響力の大きい人が、この程度の低レベルの議論しかできないとしたら、それは大問題です。

こういう状況を目の当たりにし続けているので、私は日本の生産性が異常に低い問題の原因は、労働者ではなく、経営者をはじめとした指導者にあると断言しているのです。

もちろん、データの裏付けもあります。世界経済フォーラム(WEF)の分析によると、労働者の人材評価は世界第4位なので、労働者に問題はありません。一方、統計的な分析に長けているIMDによる「IMD World Talent Ranking 2017」によると、日本の経営者ランキングは、機敏性が63カ国中第57位、分析能力が第59位、経営教育を受けたことがある割合が第53位、海外経験が第63位でした。

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