750万円投じて「美容車」を製作した女性の挑戦 「すべての人に美容室を利用してもらいたい」

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「お客様が『美容室にいる』感覚になるのが大事。もともと美容室に行かれていた方も多い。美容室に行くのが習慣で楽しみでもあったはず。それを皆さん諦めているんですね。諦めないで、できるだけ美容室に近い感覚になってほしい。尚且つ、楽で、簡単で、身体に負担もかからず、スムーズに施術できるようにこだわって、(完成まで)時間が掛かりました」

改装に2年かかったという移動美容車の店内は白基調で明るく、「お店感」がただよう(写真:©︎株式会社crazy star)

もちろんこれまでは運転したことのない1.5トントラックを、750万円以上かけ約2年がかりで美容車に。車椅子でも乗車できるように電動リフトを設置したり、車椅子から移りやすいように跳ね上げ式の肘掛がついた椅子を選んだり、座ったままシャンプーできるスイング式のシャンプー台を用意したりと、できるだけ利用者に負担のかからない設備を整えました。また、内装にも思いを込めました。

「利用してもらおうと思っている方は高齢者だけではない。障害者の皆さんや、パニック障害などの精神疾患をお持ちの方も美容室に行けない。実際に私もパニックになったことがあるのですごくわかる。行ったら震えが起こることもありました。そういう方のために、なるべく物を置かず、シンプルに。落ち着いた雰囲気をと、緑と白を基調にしました」

自治体によって基準がバラバラな条例の壁

しかし、移動美容車を始めるのは容易なことではありませんでした。

車いす用のリフトが取り付けられた移動美容車のバック部分(写真:©︎株式会社crazy star)

「完全に個人出資で。銀行さんからの出資も、いいところまでいったんですけど、結局『前例がないから、元がとれるかどうかわからない』と却下されました。前例がないというのはとても大変です。許可取れているのも、世田谷区や多摩地域だけ。『条例がある』と言われたらもう無理なので」

移動理美容車は、衛生管理などの基準を定めた条例に基づいて運営が認められています。平成26年度末時点で、許可が下りている移動理美容車は、全国で219台(※1)。

(※1)規制改革会議 第16回投資促進等WG提出資料(議題2)、平成27年12月7日、厚生労働省より

しかし、条例に定められた基準によって、ニーズに応えきれないという事態が発生しています。地方自治体によっては、店舗型の「理・美容所」最低面積基準を、そのまま「理・美容車」に適用しているケースも。「当社は高齢者施設を中心に営業しているが、保有している理・美容車は大型(4トン級)のため、個人宅からの予約は断らざるをえない状況である。小型の理・美容車を使用することができるようになれば、在宅介護の分野等にも進出できる」という事業者からの声もあります(※2)。

(※2)規制の簡素合理化に関する調査 結果報告書、平成26年10月、総務省行政評価局より

東京都の移動理美容車の面積基準は、「業務の実施及び衛生の保持に支障がない十分な広さを有すること」と緩和されていますが、全国統一の基準は設けられていないため、結局は各自治体の判断に委ねられているのです。

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