量的緩和縮小を読めなかった投資家たち FRBは純粋に失業率とインフレに対峙しているだけ

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最後に、冒頭に挙げたもうひとつの問題、投資家たちや市場関係者は、なぜ今月はテーパリング、つまり、買い入れ額の縮小であるが、これが開始されず14年1月以降と読み誤ったのか。

FRBを上から目線で見ていた、投資家や市場関係者

これは、上から目線でFRBを見ていることの誤りだ。FRBやバーナンキはそんなやわではない。市場の言うことなど聞かないのだ。投資家たちは金融政策を自分に都合の良いように動かすために、いろんなストーリーを囃して揺さぶる。

しかし、FRBやバーナンキはそんなことには動じない。特にバーナンキは、投資家たちの思い通りにこれまで株価を上げるために量的緩和を拡大してくれていたと思われているが、まったくそんなことはないのだ。「グリーンスパンプット」などという言葉、市場が困ったときは、グリーンスパンが支えてくれるという、FRB頼みのような、同時にFRBを馬鹿にしたような発想は、バーナンキには通用しない。

バーナンキは、株式市場ではなく、実体経済、失業のことをひたすら考えているだけで、金融政策の力を強く信じているだけなのだ。だから、失業が回復するまで金融緩和を続けることだけなのだ。

実は、投資家たちもわかっている。自分たちは金融政策の下僕であり、バーナンキに振り回されていることを。そして、バーナンキの本質を理解していないことも。だから、FOMCの前に右往左往するのであり、しかし、同時に自分達がFRBを右往左往させているというコンプレックスの裏返しである上から目線があり、その誤りの罠に自ら陥ってしまうときがあるのだ。それが今回であって、バーナンキの行動を読み誤ることになったのである。

バーナンキも次期議長のイエレンも、最後のFOMCだとか、最初のFOMCだとか、そういうこととは関係なく、純粋に失業率とインフレ、これに淡々と対峙するだけであり、その中で、金融政策の力を信じているバーナンキ、バーナンキ以上に失業を懸念しており、またバーナンキ以上に金融政策を信じている、あるいは過信しているイエレンがいるだけのことなのだ。

今後も、投資家たちはたびたび、この誤謬に陥ることだろう。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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