家や土地が「売るに売れない」負動産地獄の恐怖 老朽化マンション問題の顕在化はこれからだ

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このような負担は、物件の値段が下がっても容赦がない。箱根湯本駅から3キロほど離れた4LDK153平方メートルで、温泉付きの超豪華リゾートマンションについた裁判所の評価額は422万円。管理費が約4万5000円、修繕積立金が約1万6000円、温泉使用料が約2万3000円などで、1カ月に計約8万4000円になる。固定資産税は年に約21万5000円なので、維持管理費だけで年間約122万円にもなる。

調査報告書には「ほこりや家具などの状態から長期にわたり使用されていない様子」とあるが、管理費などの滞納は2016年7月からとなっているので、それまではなんとか払ってきたことになる。しかし、裁判所から郵送した所有者あての照会書は「あて所に尋ねあたりません」と、返送されてきたという。

われわれから見ると重く見えるこうした負担も、お金がある人にとっては軽く見える。しかし、人生は長い。事業がうまくいくときもあれば、そうでないときもある。サラリーマンをしていてもリストラは珍しくなく、高齢期に仕事があるとは限らない。年金は減り続けている。土地建物にかかる固定資産税は、年々少しずつ下がるが、一定額で下げ止まる仕組みになっている。

ランニングコストの重さが負担となり大問題に

ベテランのマンション管理士はこう話す。

「マンションを販売するときには、負担が少なく見えるように修繕積立金を低く設定する傾向があります。一方、系列会社であることが多い管理会社に払う管理費は高い。十数年でやってくる最初の大規模修繕でこの構図に気づいた管理組合の中には、管理会社を変えて管理費を抑え、積立金を引き上げるところもあります。これをせずにいると、二十数年後の2回目の大規模修繕で積立金が足りなくなり、一時金が必要になって、大問題に発展することがあります」

筆者を含む、私たち朝日新聞『負動産時代』取材班は、2年近くにわたる取材を通して、こうしたランニングコストの重さが負動産の原因になり、それに苦しんでいる事例をたくさん見てきた。そして、維持管理費が重いのに、売るに売れない状態になった不動産を「負動産」と呼んで、警鐘を鳴らす連載を朝日新聞で続けてきた。

負動産の問題が難しいのは、いまだに「土地神話」の余韻が残っていることだ。

大分県に住む男性(78歳)は、バブル末期の1991年初め、静岡県・伊豆半島の丘陵地の一角に約300平方メートルの別荘地を購入した。契約は東京・帝国ホテルのラウンジだった。当時は首都圏暮らしのサラリーマンで、周りには別荘を持って余暇を楽しむ仲間たちがいた。夫婦でドライブしながら物件を探し、1300万円の大枚をはたいた。

購入後、人生設計が変わり、空き地のままにしていた。ところが、別荘地の管理費として年間4万6000円ほど、固定資産税約7000円の計5万円以上が毎年出ていった。

娘が2人いる。どちらかが欲しがるだろうと考え、将来相続しないかと持ちかけたが、どちらからも「いらない」と断られた。思わぬ反応に落胆したが、そのときはまだ売れるだろうと思った。そこで、手放そうと100万円で売り出したが、いつまで待っても売れない。そこで、固定資産税の支払いを求める市役所に寄付を申し出てみたが、「そのような制度はない」と門前払いされた。

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