【林文子氏・講演】本当に心が満たされる仕事のやりがいとは何か(その7)

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東洋経済新報社主催フォーラム「Employee Engagement Forum 2008」より
講師:林文子
2008年10月2日 ダイヤモンドホール(東京)

その6より続き)

●上司と部下という関係の醍醐味

 私が中央支店の後にフォルクスワーゲン東京へと移り社長職になったときでした。ある日、東名高速で帰ってきて、そして自宅に戻りましたら、私の家の生垣のところに人が立ってこちらを見ています。私は近眼なので、気持ち悪いなと思って玄関に入っていきました。そこに駆け寄ってきたのは、(その6)でお話しした新宿支店の海男だったのです。そのとき彼は、BMWを辞めてほかの会社で課長さんになっているとのことでした。「いや、実はですね。今、東名を走ってきたら、前に珍しい車が走っていた。誰が乗っているかなと思ったら、林社長だった。これは嬉しいと思って追いかけてきました」と彼は言いました。そして、目を見てくれることなんかなかったのにと思う人が、私の目を真っすぐ見て「社長、今日はお話があって」と続けました。「本当にあの節はご迷惑をかけました。僕は今ここで課長をやらせていただいて、あの当時、支店長にお教えいただいたことを、日々、部下に伝えています。今になって、本当に支店長の気持ちが分かります。僕も昔はほかの自動車会社にいて、BMWに転職しましたが、僕が学校を出てから勤めて、あれだけ僕に向き合ってくれた上司には、会ったことがありません。これからも恐らく無いと思います。あのとき教えてもらったことを、僕は全部部下に伝えたいと思います。本当にありがとうございました」と、ものすごく真面目な顔をして言うのでびっくりしました。最後に別れてから4年ぐらい経っていたのではないかと思います。

 ここで私は、この方に教えてもらいました。上司と部下の関係は、一時的なものではないのだと。私は彼と向き合っていた5年間、本当に何かうまく行かないと思っていたのですが、彼は辞めて3~4年して、こう言ってくれる。だからその出会ったその関係というのは、永続性のあるものなのだと。どうしても上司は権力を持ってしまいますので、そこで部下が言えないことはものすごくあるのでしょう。彼はそういう思いをたくさん抱えながら、私と5年付き合ってくれたのです。そして後でいろいろ反省して、こういうすごくありがたい言葉を私にくれたわけですね。上司と部下の関係というのは、本当に学び合いです。自分が彼をトップセールスにしたとか、自分が教えて成長させたとか思っているけれど、実はそれ以上に私は彼に教えてもらったのだと。これは、組織のありがたさだなと思いました。組織に生きた人間じゃなきゃ、このありがたさは分からない。これこそ上司と部下の関係の醍醐味ですね。
その8に続く、全8回)
林文子(はやし・ふみこ)
現・東京日産自動車販売会社・代表取締役社長。
東洋レーヨン、HONDAの営業経験などを経て、BMW東京株式会社の新宿支店長、中央支店長に就任。その後フォルクスワーゲン東京代表取締役社長、BMW東京の代表取締役社長、ダイエー会長のキャリアを経て現職に至る。
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