【林文子氏・講演】本当に心が満たされる仕事のやりがいとは何か(その5)

東洋経済新報社主催フォーラム「Employee Engagement Forum 2008」より
講師:林文子
2008年10月2日 ダイヤモンドホール(東京)

その4より続き)

●従業員の問題を共有化する「共感力」を徹底しました

 私の前任者は温かい人だったのですが、トップダウン型で言葉も非常にきつい方でした。しかし、私は全く違いました。一つの例ですけれど、競合相手にお客さんを取られてしまったA君に、前任の支店長は「その1台は今月の大事な1台なんだよ。お前、グズグズしているからだよ。じゃあ俺がちょっと一緒に行ってやるから、お前、連れていけよ」とこういう感じです。支店長も悪気は全くないのです。男同士で気安いですから、かわいさ余ってワーッと言うわけです。しかし、私は違いました。「Aさん、いかがなさいました?あなただってあんなに一生懸命やっていたじゃないですか」と。実はこの人、全くやっていない人なのです。前任の支店長から、「林君、もうA君は腰が重くてね、駄目なんだよ。ああいう駄目なのが1人、腐ったリンゴがいると店中が腐るから、何だったら俺が引導を渡してから異動してやろうか」と言われました。しかし、部下は上司を選べません。自動車のお店というのは、3~4年すると店長が替わっていきます。彼は歴代の店長から非常に評価が悪いけれども、私はその評価をリセットしてあげて、そしてニュートラルな気持ちで彼に向き合ったら、彼の力が出るかもしれないと思いました。そういうチャンスを彼は得ているわけです。それをみすみす申し送りによって消してしまうことはないと考えました。確かにグズグズして、なかなか出ていかない。気が優しいことは優しい。いいところはたくさんあります。アフターケアなども上手なのです。ただ、一歩踏み込んでいく力がないから、売れないわけです。

 「ええ?こんなに一生懸命やっていたのに。この間の展示会にお客様が来ていたの。何で私を呼んでくれなかったの。私が出ていけば、もっと状況が変わっていたかもしれない」と言うと、「だって支店長、出かけていましたよ」と言う。「ああ、そうか。その日は私用で出かけていたんだ。ごめんなさいね。もっとコミュニケーションしてれば、事態が変わったかもしれないね」と、その困った問題を共有化するのです。
 「ねえ、でもちょっととりあえずお客さんのところへ行ってみたいから、連れていってくれない?」とお願いをするのです。行ってやるとは言わない。そして、ほかの車をお客さんが購入していた場合も、ネガティブに言いません。「ああ、残念だったね。もうちょっと密にコミュニケーションを取っておけばよかった。これは私も失敗しました。でもこうやってちょっとした隙に、あちらに気持ちが傾いた。こんな失敗例をお客さんは私たちに教えてくれて、ありがたかったね。二度とこういう失敗はしないようにしましょう」と話をして、それ以上とやかく言わない。結果的には勉強になったねと、すっきり終わらせてしまいます。そして「今日はAさんと半日一緒に仕事して楽しかったですよ」と言ったわけです。
 そして、今度は褒めるのですね。20歳も年下のセールスに向かって、「Aさん、あなたはいろいろ説明していたけど、お上手ね。勉強になりました。どうもありがとうね」と笑顔で言うわけですね。さらに「Aさん、私、今日はちょっと反省しちゃったんですよ。支店長になったら、どうしても腰が重くなってお店にいることが多くなりました。でも、こうやって自分から出ていくと、お客さんの気持ちも分かるし、世間の空気もよく分かるね。やっぱり営業はいつも行動して出ていかなきゃいけない。こっちから攻めていかなきゃいけないね」と言うのですね。決して「あなたはいつも出ていかないでしょう」とは言いません。これは聞いているAさんにしてみれば、自分はやっぱりちょっとグズグズしている人間ですから、全然自分は批難されずに「これがいいですね」と言われて褒められて、こうしなきゃいけないと支店長が反省していると感じます。現場と共有する気持ちは、「共感力」という言葉がよく使われておりますが、これを徹底的にやらせていただきました。
その6に続く、全8回)
林文子(はやし・ふみこ)
現・東京日産自動車販売会社・代表取締役社長。
東洋レーヨン、HONDAの営業経験などを経て、BMW東京株式会社の新宿支店長、中央支店長に就任。その後フォルクスワーゲン東京代表取締役社長、BMW東京の代表取締役社長、ダイエー会長のキャリアを経て現職に至る。
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