【林文子氏・講演】本当に心が満たされる仕事のやりがいとは何か(その2)

東洋経済新報社主催フォーラム「Employee Engagement Forum 2008」より
講師:林文子
2008年10月2日 ダイヤモンドホール(東京)

その1より続き)

●体当たりで営業をして、お客様に怒られながら教わりました

 当時の自動車業界というのは、本当に男性主流でして、スタッフも男性がほとんどでした。ディーラーにはクラークの女性が数人いるだけで、もちろん営業や販売企画には女性がどなたもいらっしゃらない。つまり男性の視点や感性、考え方で動いていたわけです。ですからショールームはもう名ばかりで、本来だったらショーウィンドウに美しく車を飾って外から見ていただくようなことが大事なのですが、そんな考えはほとんどない。カウンターには保険の説明書が散乱しているような感じで、ガラスのウィンドウの内側にはタイヤが山積みになっていたり、ガラスにはポスターがペタペタと貼ってあったり。工業製品の中でも、デザインマインドが必要だというか、最高に美しいデザインの車が無造作に置かれていました。

 今は、どの企業も「おもてなし」という言葉を積極的に使うようになりました。1980年代にCSという概念が日本に入ってきて、お客様満足度向上ということを一生懸命やり出しました。ここ10年ぐらいものすごく熱心になりまして、今は感動の時代、歓喜の時代。お客さんがもう喜んで飛び上がってしまうぐらいにしないと駄目だという時代になってきています。しかし1970年代の当時は、まず「おもてなし」なんていう言葉はありません。ですから新車を一生懸命開発して、テレビや新聞で宣伝をして、そしてお客様がショールームにお出でになると、「さあ、どうだ。こんなにいい車を出しましたよ」という感じです。

 男性ばかりの泊りがけの研修に女性の私は参加できないということで、社長自ら3日間かけて教えてくださいました。しかし、その社長は「こうやって車を売る」ということは、全くおっしゃらなかったのです。3日目になりまして、裏の工場の脇の洗車場に「先輩に長靴を借りておいで」と言われました。そこに伺いましたら、社長は既に長靴をお履きになりワイシャツの袖をまくっていらっしゃり、「もし最初の1台が売れたら、君がこうやってきれいに水洗いをして、自分の手でワックスをかけて、お届けするんだよ。これが営業の大事な仕事なんだ。売るだけが仕事じゃない。ここから本当の仕事が始まる」ということを教えていただきました。そしてその後に「行ってこい。自由にやってこい」と鞄と名刺をくださいました。「自由にやってこいというと、何をやったらよろしいですか」と言うと、「飛び込みやってこい」とのことでしたので、男性の先輩のところに行きまして「飛び込み訪問の仕方をちょっと教えてください」と申し上げました。すると、「いや、女の人と歩くのは格好悪いから、勝手に行け」となる。そこで自分で訪問活動をし始めました。ですから私は先輩の男性のように、何か事細かく商売の仕方を教わったわけではありません。体当たりで行って、お客様にいろいろなことを怒られたりして教わりました。そんな過程を経たわけです。
その3に続く、全8回)
林文子(はやし・ふみこ)
現・東京日産自動車販売会社・代表取締役社長。
東洋レーヨン、HONDAの営業経験などを経て、BMW東京株式会社の新宿支店長、中央支店長に就任。その後フォルクスワーゲン東京代表取締役社長、BMW東京の代表取締役社長、ダイエー会長のキャリアを経て現職に至る。
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