(第32回)近世日本人数学者列伝~広中平祐~(後編)

桜井進

●ヒルベルトの問題

 ロシア生まれでドイツの数学者ヒルベルト(1862~1943)が1900 年、第二回パリ国際数学者会議で提示したのがいわゆる「ヒルベルトの23 の問題」です。ヒルベルトは招待講演「数学の将来の問題について」の中で、数学研究の中で優れた問題が果たす役割について解説しました。そして彼自身が数学の諸分野から選んだ23題の問題を提示したのです。その講演は「若者達よ、これらの問題に挑戦せよ」で結ばれたのでした。時にヒルベルト38歳。いまだ未解決難問として君臨する「リーマン予想」は第8の問題【素数の諸問題】に含まれるものだったのです。
 日本人もその解決に貢献しています。例えば、
第9の問題 【一般の相互法則】
高木貞治(連載第24回参照)の類体論によって、劇的に解決されました。
第12の問題 【任意の代数体上のアーベル拡大に関するクロネッカーの定理の拡張】
虚二次体の場合がいわゆる「クロネッカーの青春の夢」(連載第24回参照)ですが、これがまさに高木貞治の類体論の完成により解決されました。
第14の問題 【代数的不変式系の有限性の証明】
4次元以上について永田雅宣によって否定的に解決されました。
などです。そして、広中平祐の「代数多様体の特異点解消定理」(1969年)こそ第22の問題【保型関数による解析的関係の一意化】を解決した快挙だったのです。

●数学における創造

 数学世界における創造とはいったい何を意味するのでしょうか。そもそも数学世界とは、数や形、そして代数などという主人公が生息する世界のことです。その世界を舞台に、彼らの振る舞いを観察することから始まります。例えば、ガウスは少年時代、寝る前に自然数が書かれた表を眺めながら眠りについたと言います。ガウスは表の中にある素数に印を付け、素数がどんな規則で自然数のなかに配置しているかを知ろうとしたのです。1からnまでにある素数の数は、と近似できることを発見したのです。それはのちに素数定理と呼ばれることになるものでした。
素数定理 x を越えない素数の個数をπ (x)とすると、
 素数(1 と自分自身しか約数を持たない自然数)という数が自然数の中でどのような振る舞いをするか、それはまさに素数が織りなすリズムのことです。この素数が奏でるリズムを正確に読み取ろうとする努力は続きます。素数定理が証明されるのに100年の年月を必要としたのです。1896年、フランスのアダマールとベルギーのプーサンによって独立に素数定理は証明されました。
 リーマンはゼータ(ζ)関数の零点の様子が素数分布の様子を反映することを発見しました。これにより、素数の様子はゼータ(ζ)関数を調べることでわかるようになったのです。これが有名なリーマン予想につながって行きます。
リーマン予想
リーマンのゼータ関数ζ (s)(sは複素数)の零点は自明なものをのぞけばすべて実部が1/2 上(s=1/2+it)にある。
 このように、素数について、ただ単に数表を眺めることから、ゼータ(ζ)関数を調べることにその調査手法が発展していきました。これこそまさに数学における創造です。
 数学世界に現出する現象の背後にある原理や法則を見つけ出すことこそ数学における創造です。1969年、広中平祐は400ページにのぼる論文の中で特異点解消定理の証明を成し遂げました。
 特異点解消の定理とは、少し神秘的ないい方をすると、物体の本質とその影との関係を解き明かしたものだといえる。ジェット・コースターの軌道の例でいえば、特異点のないジェット・コースターの軌道の本質と、特異点のあるジェット・コースターの軌道の影との関係を証明するものでなければならない。そのような定理が見つかれば、すべての影は本質に帰し、特異点は余すところなく解消されるはずなのである。
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