「よく聞こえるスマホ」はこうして生まれた 米国で大躍進、京セラ革新技術の開発秘話

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とはいえ、本当の不安は「作れるか」という物理的なものより、前例のない部品だけに「市場が受け入れてくれるかどうか」にあった。従来の電磁レシーバーでも、消費者は不満を抱きながらもそれに慣れている。そもそも、消費者はこんな機能を望んでいるのか。大槻の煩悶は続いた。「実は発売が実際に決まってから半年くらいが、いちばん苦しかった」。

2012年5月、SSRを搭載した最初の機種が発売された。国内での出足はやや鈍かったが、機能が認知されるにつれ、徐々に動きが加速。発売後、わずか9カ月でSSR搭載3機種の累計出荷台数は100万台を超えた。

革新技術が生んだ好循環

大槻を裏切るうれしい誤算もあった。最初にターゲットとしていたのは、屋外で利用する機会の多いビジネス用だった。ところがふたを開けてみると、シニア層へも広がりを見せた。スマホに替えたのはいいが、音が聞こえにくいので、次第に外では電話が鳴っていても取らなくなったと言っていたシニアが、喜んで使っているのだ。

さらにディスプレー全体で音を伝えるため、受話部の穴を作る必要がなくなった。穴がないことで、防水・防塵性能の向上というオマケまでついてきた。

SSRを世に送り出せたことで、部品メーカーは部品メーカーとして、市場の先をとらえて提案していくことができると証明した。この経験は、2013年のCEATECで注目を集めた超薄型スピーカーの開発につながっている。

「これまで電子部品メーカーは、日本の電機メーカーに強くしてもらった面もあった。これからは部品メーカーが恩返しする番だ」。部品屋としての矜持が、大槻の瞳の中でほのめいた。

=敬称略=

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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