40歳、歌舞伎町で俳句を生業にする男の稼ぎ方 子どもの頃から興味のあった道に落ち着いた

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壁には絵や写真などが乱雑に貼られている。とても混沌とした空間だ。

「そこの階段を上ると部屋があって、そこで句会をするんですよ」

と言われる。乱暴に上ったらそのまま壊れて崩れてしまいそうな古びた階段だ。

短冊で埋め尽くされたヤニまみれの壁(筆者撮影)

恐る恐る上ると8畳ほどの部屋があった。すさまじく古くてボロい部屋だ。敷かれたカーペットは湿ってへたり、壁はタバコのヤニで黄色く染まっている。そしてその壁には、コピー用紙を割いて作った短冊がズラッとセロハンテープで貼られている。短冊には、一つひとつ俳句が書かれている。

夜な夜なこの部屋に、屍派のメンバーが集まって句会が開かれているのだ。屍派には、ニート、キャバ嬢、ながしのマッサージ師、女装家……などなど個性的な人たちがいる。

この“城”を取り仕切る、俳人・北大路翼とはいったいどんな人間なのだろうか? 

「砂の城」店内で話を聞いた。

先生の言うことをまったく聞かない子ども

「生まれは、えっとどこだっけ。ああ、横浜の港南区ですね。ごく普通の家でしたよ。途中で引っ越しましたけど、結局30歳くらいまでは実家にいました」

北大路さんは、小さい頃から人と同じことをするのが嫌だった。まじめな生徒でいるのも嫌だったが、不良になるのも嫌だった。不良は不良で皆仲間どうしで同じことをするからだ。

そんな小学校低学年の頃、国語の授業で自由律俳句の俳人、種田山頭火に出会った。

「『かっこいいじゃん』って思いました。家にたまたま全集があって貪るように読みました。俳句が自分の『不良道』になったんです」

とにかく先生の言うことは聞かない子どもだった。小学校3年生のとき、先生がクラスのほかの生徒たちに言った。

「彼(北大路)はクラスの中にいないことにします。だから、皆さんはいてもいないフリをしてください」

先生が生徒に「生徒を無視しろ」、とはありえない発言だ。現在だったら大問題になるだろう。先生の発言を真に受けた生徒たちは北大路さんを無視した。

「いや、ひどいですよね(笑)。でも当時の僕は全然嫌じゃなくてちょうどいいやって。授業中はずっと好きな本を読んでましたね。

結局最後には先生から『こんなに意地っ張りとは思わなかった。負けました』って謝られました」

成績もよかったが、体育と音楽だけは1だった。運動着を着るのが嫌で体育の授業は1回も出なかったし、笛は先生の目の前でたたき折った。

小学校高学年になると、ギャンブルに興味を持ち始めた。ちょうどオグリキャップが引退する頃で、競馬が盛り上がっていた。

「小学校5~6年で競馬場に行ってました。僕は子供の頃から背が高かったんで、怒られなかったですね。当時のお小遣いは月1000円でした。競馬場までの交通費は500円で、当時馬券の最低購入金額が500円。つまり1枚しか馬券を買えなかったんです。それでも当ててました(笑)」

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