東京電力の「未来」は分割・破綻方式で開ける 先送り方式は限界。新スキームに移行するべき

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機構法の附則第6条で「政府は早期に原子力事業者(東電)と政府、株主その他利害関係者(金融機関など)の負担のあり方を含め、必要な措置を講ずる」と規定したのは、将来、株主や金融機関が責任を負わないまま、巨額の税金が投入されることに、国民の納得が得られない日が来ることを見越していたとも考えられる。今まさにその時が来たということだ。

破綻処理論は11年3月の震災直後からある。しかし、ここまで2年半、破綻処理を避けてきた。安倍首相も破綻処理の手法は取らない旨の答弁を国会で行っている。破綻処理を避ける主な理由は、電力の安定供給に支障を来すかもしれない、金融市場が大混乱に陥るかもしれない、被災者への損害賠償支払いが滞るかもしれない、といった不安感だろう。

しかしこうした漠とした不安は、すべて誤解によるものだ。破綻処理とは法的整理であり、株主、金融機関にも応分の負担をさせるための手法。事業は従来どおり行うため電力供給への不安はない。金融市場の混乱も限定的であり、被災者への対応は国が責任を持ってやれば済む話だ。

ただ震災直後とは異なり、この2年半で債権債務関係は大きく変化している。現在の株主や債権者の責任を100%追及するのは、無理がある。金融機関の立場としても、融資全額分の貸手責任を負うことには到底納得できないはずだ。

そこで破綻処理には工夫が必要になる。株主や債権者の言い分をある程度くみ上げ、責任の割合を調整する手法だ。それが「企業分割による破綻処理」であり、野村教授らが主張している手法だ。

事故処理会社も有望

具体的には、今の東電から廃炉・汚染水処理、除染作業を行う「事故処理専門会社」を設立し、本業の電力事業を行う「電力会社=新生東電」から切り離す。株式も銀行債権も2社分に切り分ける。そして事故処理専門会社は法的整理を行い100%減資と債権放棄で身軽に。同時に国が出資して国営化する手法だ。

ここで問題になるのが銀行の債権をどう2分割するか、だ。野村教授は、「震災の前後で銀行の債権を分ければ納得しやすいはず」と言う。震災直前の銀行債権分(2ページグラフの1兆9765億円)を事故処理専門会社のほうに割り振り、放棄させる。その代わり、それ以降に緊急融資等で貸し出した分は新生東電の債権として残す。

被災者の損害賠償債権については、新生東電が負い続けてもいいし、新生東電から負担金の形で事故処理専門会社へ定期的に支払う手法も考えられる。

また、一般担保のついた電力債については、すべて新生東電が責任を負えばいい。そうすれば多くの金融関係者が懸念する「社債市場へのショック」は回避される。

こうした分社化・破綻処理スキームは、特別措置法によって実施可能だ。新たな枠組みを作ったうえで、債権者間で調整を行い、それを法律でフィックスさせればいい。法律で強制的に債権調整する形だから、金融機関も株主代表訴訟を受ける心配が少なく、負担に応じやすい。

重要なのは、事故処理専門会社と新生東電が共に優良企業になる可能性がある、ということだ。

事故処理専門会社は最先端の廃炉技術を蓄積する。世界中の研究者が福島に集まれば、世界最高水準の廃炉技術を確立し、日本国内だけでなく世界でビジネス展開できるかもしれない。

一方の新生東電は、放置すると震災前の東電に先祖返りしかねない。現在進めている調達改革や資産売却の手を緩めないよう株主、金融機関のプレッシャーが必要だ。調達改革担当幹部は「東電の構造改革は、サプライヤーを含めた電力業界全体の構造改革につながる」と強調する。特別措置法の中で発送電分離についても明示し、これを着実に実行すれば、電力自由化のフロントランナーとして記憶されるはずだ。

「分社化したとしても、新会社のトップのなり手がいないだろう」「国営会社が事故処理をうまくやれなかったら誰が責任を取るのか」──こうした懐疑的な意見は根強い。それを乗り越えて一歩踏み出せるか。安倍政権の覚悟が問われている。

(撮影:Getty Images By The Asahi Shimbun 、 週刊東洋経済2013年12月14日(9日発売)号より)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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