東京電力の「未来」は分割・破綻方式で開ける 先送り方式は限界。新スキームに移行するべき

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最大の壁は、立地自治体の長である泉田裕彦・新潟県知事だ。泉田知事は9月26日、フィルター付きベント(排気)装置の運用開始に当たり、新潟県の了解を得ることを条件に東電の審査申請を了承。だが、審査を指揮する規制委の更田豊志委員は11月28日の審査会合で、「(ベントの)運用手順そのものが(地元によって)変更される可能性がある。審査に入れるか懸念を持たざるをえない」と、現状での審査継続に疑念を示している。

もとより泉田知事の再稼働反対姿勢は一貫している。「福島第一原発事故が収束せず、事故の検証、責任追及が不十分なままでの再稼働は、到底、国民の理解は得られない」というもの。たとえ審査に合格したとしても、その後に必要となる地元合意が得られる保証はまったくない。

泉田知事自身、新しい総特で再稼働時期を14年7月とする案が浮上していることに対し、「何の根拠もない。絵に描いた餅だ」と批判している。原発再稼働のメドが立たない以上、再稼働を前提とした収支計画も、電気料金値下げ方針も、まったく当てにならないと言える。

今は、帳尻合わせのような彌縫(びほう)策を練っている場合ではない。本当に必要なのは、総特以前の問題である東電の賠償スキーム全体の見直しだ。

これまでの賠償スキームは、国が機構を通じて東電に資金を交付して経営破綻を防ぎながら、被災者賠償については東電が無限責任を負うというもの。機構の交付金は、会計上は贈与金(特別利益)の性格にして計上するという手法を取ってはいるが、実質的に貸し付けで、東電が長期間かけて返済する構図だ。

しかし、除染費用に国費を投入し、東電の無限責任を回避できる道を作った時点で、現行スキームは瓦解している。「原子力損害賠償法と原子力損害賠償支援機構法に基づく従来の枠組みは、すでに成り立たなくなった」(植田和弘・京都大学大学院教授)。

国費投入は破綻が前提

震災当初、進む道は二つあった。一つは巨大な天災であることを理由に東電を免責にする道。この場合には被災者への補償は国が直接行う。

ところが、政府(当時は民主党政権)は免責申請をしないよう東電を説得し、残るもう一つの道、東電による無限責任を選択した。賠償責任が政府補償(1200億円)を超える場合は政府が「必要な援助」を行うとされている。

援助という言葉の解釈は「低利融資」から「賠償損失の負担」まで幅広い。福島事故の国会事故調査委員も務めた、中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也氏は「国が賠償損失を負担するならば、東電がすべての責任を果たした後だろう。つまり破綻後を想定していると考えるのが妥当」と指摘する。

もし政府が除染費用に国費を投入する方針を固めるのならば、東電を破綻処理し、株主や金融機関などの責任を明確にしたうえで投入するのが筋なのだ。

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