日本企業に足りないのはAI経営の本質理解だ 経営共創基盤・冨山和彦CEO「自前主義捨てよ」

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以前、ある自動車メーカーの研究開発者向けの講演で、パワーウィンドーやワイパーが好きで自動車を買った人はいますかと聞いたら、1人も手を挙げなかった。しかし、実際はパワーウィンドーやワイパーを自社で開発している。競争領域でないものは自社で開発しないで、他社に任せたらいいんですよ。でも、その割り切りができない。

中島秀之(なかしま ひでゆき)/東京大学大学院情報工学専門課程修了(工学博士)。通産省工業技術院電子技術総合研究所に入所後、産総研サイバーアシスト研究センター長、公立はこだて未来大学学長を経て、2016年6月より東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻特任教授。現在、札幌市立大学学長。人工知能を状況依存性の観点から研究している。

自分たちが競争すべきところはどこか。それがデジタル革命とグローバル革命では鮮烈に問われます。ですので、「AIの研究者を集めるんだ」と言っている会社があれば、その会社は危ないです。

AIウォッチャーのような人材を雇って、世界中の開発動向を見ながら、どれをパクるかを考える。「すげーぞ」と思ったら買収してもいい。それができているのが、コマツです。コマツはロシアやアメリカの技術を買ったり、ライセンスを受けたりしています。

中島 ディープラーニングは借りてきて、使えばいいだけですからね。

冨山 誰でもある程度練習すれば使えるようになると思いますよ。それでいいんですよ。AIの開発で正面から立ち向かおうと考えたら、アメリカに総力戦を挑むような75年前の繰り返しです。

AIに人事を任せるのはありだ

AIの研究者を1万人作れと言っても無理です。才能がないといけないので、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平君を100人作れというのと同じくらい難しい。日本の人口は約1億人、中国は約14億人、アメリカは約3億人です。

中国は14億人の中から、アメリカは世界中から人材が集まるので40億人くらいのプールの中から、天才が出てくるわけです。仮に天才の出現率が一緒だとしても、人口が格段に違いますから、そこで戦うのはナンセンスです。

中島 AIの使い方で言うと、人事をAIに任せるのはありかなと思います。企業経営者からよく「AIでどういうサービスができますか」という質問をもらいますが、現在は製品やサービスに使うことばかり考えていて、自分たちの経営にAIを使うという発想があまりありません。まずそれをやらないとダメだろうと思うし、それが1つの救いになると思います。

大きな企業でも人事の大部分をAIにやってもらえればクールになる。そういうことを考えてくれる企業が出てほしい。採用をAIでマッチングしようという流れは出てきていますから、もう一歩だと思います。

※1 サンドボックス 

参加者や期間を限定することなどにより、既存の規制にとらわれることなく新しい技術等の実証を行うことができる環境を整備することで、迅速な実証および規制改革につながるデータの収集を可能とする制度を「規制のサンドボックス」と呼んでいる。日本を含め、各国で実施されているが、このような制度がなくても、新事業・新技術の実験・実証を進める国もある。

※2 ホワイトリスト型とブラックリスト型

ホワイトリスト型(形式)は、サービスなどで警戒を必要としない、利用可能なものを示す方式。一方、ブラックリスト型(形式)は、サービスなどで警戒を必要とする、利用してはいけないものを示す方式。

※3 Mobileye(モービルアイ)

単眼カメラの画像認識技術による衝突防止補助システムで車載カメラの採用実績を伸ばしてきた、イスラエルのテクノロジー企業。自動運転など次世代自動車の研究開発を強化している。

角川アスキー総合研究所
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