「クリスマスは恋人と」っていつ決まった!? 「恋人同士がフランス料理を食べてホテルに泊まる祭」の起源

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一方で1980年代に20代だった層(1960年代生まれ)で初めて、女性の初体験の相手として、配偶者(16%)よりも恋人(66%)の比率が高くなります。1950年代生まれではどちらも40%程度だったので、この1980年代に20代だった世代が、大きな転換点ということになります。

男性の場合は、配偶者の比率は一貫して低く、1950年代生まれでは、恋人30%、風俗26%、配偶者10%。実は、友人が配偶者より多く13%、あとは顔見知り、婚約者などなどです(『データブックNHK日本人の性行動・性意識』日本放送出版協会)。ところが、これが1960年代生まれになると、恋人が56%と他を圧倒し、下の年代になるほど「風俗」の比率も下がっていきます。いわゆる「筆おろし(初体験の相手に玄人の女性を選ぶ)」という習慣が、このあたりから消えていき、恋人がそれに取って代わるのです。

さらに「未婚女性が性関係を持つこと」の賛否(行動ではなく意識)に対する回答でも、1960年代生まれの女性で完全に逆転し、肯定的な意見を持つ人が圧倒的に多数派になります。実は日本社会は、こうした性行動・性規範については、男女差よりも世代差・年代差のほうがはるかに大きい社会で、その極端に大きな、いわば「革命的な」変化が、1980年代にあったことがわかるのです。

ですから、今では死語になりつつある「婚前交渉」が多数派になり始めたのは、実はこの1980年代。つまりちょうどこれらの歌が流れていた時期に、クリスマスは「子どもがプレゼントをもらう日」から「恋人同士がフランス料理を食べて、ホテルに泊まる日」になっていったことがわかるのです。

みなさんが感じているような「クリスマスまでに恋人を見つけなきゃ感」みたいなものって、実は1980年代に顕在化し、その後、さまざまな歌やCMを通じて増幅された、ごくごく最近の感覚なのです。

ですから「予定のない」あなたは、愚かな「リア充」どもが、そうやって作られたクリスマスのイメージに踊らされ、中身は同じなのに普段より高いおカネを払い、分不相応な飲み食いをして、ホテルに泊まっているのを、静かにあざ笑っていれば……なんて、できないですよね。う~ん。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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