レクサスが抱える「世界観」の確立という難題 「ES」「UX」投入で新しい流れをつくれるか

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そのほか、日産自動車でもアキュラの動きを牽制するために、「インフィニティ」の初案が議論されてきた。

当時、北米のトヨタとホンダの営業本部はカリフォルニア州ロサンゼルス近郊のトーランス市内にあり、また北米日産の本部もトーランス市に隣接するガーディナ市にあった。こうした各社社員の個人的なつながりにおいて、各社の情報が「ここだけの話」として漏れていった。私はそうした現場に何度も居合わせている。

北米トヨタは各社からの生情報を精査し、また自動車業界の今後を考察する中で、アメリカ発のレクサスブランド構想が立ち上がった。

その業務の中核にいたアメリカ人は「年に何度も本社に説明に行ったが、まるで大きな石のように、本社上層部はまったく動かなかった」と、当時を振り返る。「ところが、レクサスの話が決まってからは、本社の動きは一気に大きくなった。大きな石が一度動き出してしまうと、われわれもその動きを止められなくなった」とも表現した。

こうして1989年に初代「LS(日本のセルシオ)」と初代「ES」でレクサスはアメリカでスタートを切った。

メルセデス「C、E、S」とBMW「X5」の影響

「メルセデス並みの性能とクオリティで、この価格」「これまでのディーラーは胡散臭い感じで嫌だったが、レクサスのお店はお客への対応がまったく違う」

1990年代に入ると、レクサスが狙ったとおりのリアクションが市場から聞こえてきた。筆者も全米各地でこうした声を当時、聞いている。付け加えるならば、「レクサスを購入したアメリカ人の多くが、レクサスはトヨタが作っているクルマであることを知らない」という噂が、北米の自動車業界関係者の中でささやかれるようになった。

出足好調のレクサスに対して、ダイムラーとBMWが強い警戒感を示すようになった。

そうした中で、メルセデスブランドは小型の「Cクラス」、中型の「Eクラス」、大型の「Sクラス」というモデルラインナップの3本柱の構築を急いだ。BMWは「3シリーズ」「5シリーズ」「7シリーズ」として、そしてレクサスが「IS」「GS」「LS」として対抗した。

一方、当時は米ビック3と呼ばれていた現在はデトロイト3(GM、フォード、FCA)はフルサイズピックアップトラックの車体を流用した収益性の高いフルサイズSUVでプレミアム市場での明確な立ち位置を確立していた。

そこに、BMWが北米市場を最優先した「X5」を投入し成功を収めた。この動きに、ダイムラーやVWグループのアウディ、さらにレクサス、アキュラ、インフィニティが追従。結果的に、「クロスオーバー」というモデル域がプレミアム市場の一角を占めるようになった。これにより、プレミアムブランドにおけるフルラインナップ化がさらに加速した。

さらにもうひとつ、1990年代から始まった高級車市場での大きな流れがある。パフォーマンスブランドの登場だ。

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