中央銀行は期待をコントロールできるのか いつどこで人々の心理が変わるのかは、わからない

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しかし、物価が上昇しているという事実を目の当たりにすれば、人々の予想は意外に簡単に変わるかもしれない。現在、起きている物価上昇は、量的・質的緩和政策で想定されている仕組みとは違って、円安による輸入物価の上昇や電力料金の値上げなどで引き起こされたものだ。さらに来年度に起こると予想される物価上昇も、消費税率引き上げによって起こるもので、金融緩和政策とは別の原因によるものだ。

だが、何が原因で物価が上昇しているのかを区別して考えない人も少なくないだろうから、とにかく消費者物価の上昇が続けば、現実を目の当たりにした消費者や企業の予想が、しだいにデフレからインフレに変わることは十分ありうる。フィリップス曲線が2000年代に入ってからの水平に近いものから、1990年代以前の傾きの急なものに近付けば、失業率がそれほど低下しなくても2%の物価上昇が実現できるだろう。

 心理が変わってマネーが動き出したら・・・

マネーストックの名目GDPに対する比率(マーシャルのk)は過去の上昇トレンドを考慮しても、かなり高い水準にある(右図)。国内には大量のおカネがあるにもかかわらず、物価上昇率が極めて低水準にとどまっているのは、デフレ予想が根強いからだ。家計ではタンス預金や銀行の普通預金におカネが滞留しており、企業も余剰資金を寝かしたままにしているので、現在の日本経済ではおカネの動きは極めて鈍い。

しかしデフレ心理が払拭されれば、各所で休眠状態にあった資金は目を覚まして動き出し、マネーストック(経済全体に供給されているおカネの量)は経済規模に対して過大だと評価されることになるだろう。インフレが加速したり、どこかでバブルが膨張して問題を引き起こしたりしないようにするために、大量の資金を吸収しなくてはならなくなると考えられる。

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