ルネサス鶴岡工場、「独立構想」の全貌 ソニーの出資をテコに工場の存続を目指す

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構造改革を進めるルネサスは、新規の設備投資もままならない状態。主力拠点に据えた那珂工場に最先端ラインを集中させ、自動車や産業機械向けのマイコンを効率的に生産し、収益回復を図る必要がある。鶴岡工場から那珂工場へ装置を移設することにより、何としてでも競争力を強化したいのが本音だ。ソニー側は「製造装置を大量に持っていかれたら買収を検討する意味がない」と考えており、どう折り合いを付けるかが買収交渉を左右することになりそうだ。

ステークホルダーの多くは冷ややか

鶴丸哲哉社長と作田久男会長の判断は?

鶴岡工場の存続は、地元の雇用や技術を守ることにつながる。経済産業省が間に入ってもおかしくないが、「ソニーの経営の問題」(経産省幹部)とそっけない。官民ファンドの産業革新機構がルネサスに1384億円出資して実質国有化となった以上、最優先課題はルネサス自体の再建であり、鶴岡工場の存続に対する関心は薄い。

かつてNECエレクトロニクスの最先端工場だった鶴岡工場には混載DRAMという、記憶回路のDRAMとロジック回路というまったく製造工程が違う2つを1枚のウエハ上で実現できる世界唯一の技術を持つ。これは製造装置を使いこなす技術者抜きには不可能であり、同じ装置を那珂工場(旧日立製作所)の技術者が使えるようになるまでには時間を要することも考えられるという。鶴岡から那珂工場へ装置を移設するだけで200億円の費用が生じるが、その後の生産ライン立ち上げが計画通りに進まないリスクもあるのだ。

ならば鶴岡工場に装置を温存してファウンドリー会社として独立しておけば、ルネサスがOEM活用する選択肢も残されるわけだ。カギを握るのはソニーとルネサスの理解。まずは近々に両者が正式に始める事前交渉が前に進むことが、すべての前提である。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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