【産業天気図・パルプ・紙】原燃料高反転だが需要低迷、値上げで収益回復ねらうが天気は「曇り」模様

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 08年10月~09年3月   09年4月~9月

製紙業界は2008年度、09年度とも「曇り」空に覆われそうだ。足元では原材料高が一服してきているものの、世界的な景気後退入りに伴って肝心の製紙需要が落ち込んできているためだ。

今年の8月以降、製紙業界を取り巻く環境は激変した。過去4年間苦しめられてきた原燃料高は落ち着きを見せている。原油価格は7月ピークから半値以下にまで下落し、古紙価格も高値水準を維持し続けている。秋以降、輸出古紙価格は急落しており、国内価格に余波が及ぶのも時間の問題とみていい。
 
 製紙各社とも、この4年間、バイオマスボイラーの導入などの設備投資を実施しており、重油依存度を下げてきた。このため原油価格の影響度そのものが低下している。さらに原燃料高の価格転嫁も実効をあげている。07年度当初から、このままでは赤字転落、という背水の陣で各社が値上げに取り組み、過去28年間値下げはあっても値上げはなかった新聞用紙にまで、5%とはいえ値上げを勝ち取った。
 
 それでも王子製紙<3861>を始めして、過去4年間累計の原燃料高による減益を、数百億円単位でいまだに取り戻せていない、と製紙メーカーは言う。だがそれでも、2008年度上期の収益ベースで見れば、王子、日本製紙グループ本社<3893>を始めとして営業利益で2ケタの回復を実現しつつある。このままいけば08年度下期以降、晴れ間も垣間見えそうだった。
 
 ところが新たな問題が浮上してきた。深刻な景気後退に伴って、紙の需要そのものが低下しつつあることだ。印刷用に使われ大手製紙の主要製品である塗工紙が8月前半までは値上げ直前の駆け込み需要も手伝って需要は好調だったのに、8月後半から反動と見られる需要減退が始まり、流通、メーカー併せた在庫が膨らんだ。
 
 これに危機感を持った日本製紙、王子製紙を始め大手各社が9月から順次減産に踏み切っている。過去、製紙業界ではこういった局面で必ずシェア奪取を狙った拡販→値下げに走る企業が出たものだが、今回に限っては、大王製紙<3880>、北越製紙<3865>、中越パルプ工業<3877>、と下期中の減産を打ち出している。背景には需給のだぶつきによる価格低下を、何としても防ぎたいという共通認識がある。さらに、これまで国内市況がだぶついたときの安全弁であった輸出が、世界同時不況と円高でほとんどできない状態であることも、各社が減産に踏み切る要因となっている。レンゴー<3941>、王子を筆頭に、板紙、段ボールに関しても同様だ。
 
 需要低下が、過去30年間のように1~2%、悪くても5%程度の下落ですめば、新年度からは減産も解除でき、原油安のメリットも現れるので、さらに回復が見込める。だが輸入紙の増加で国産紙需要が10%以上の下落となると、仁義なき販価競争に突入しないとは限らない。「需要低下や減産は一時的だが、値崩れを正すのは容易ではない」という塗工紙トップメーカーの意志がどこまで通じるか、がカギになりそうだ。
(小長 洋子)

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