インターネット界の「図書館」はどこへ行く? 金儲けではない、もうひとつの世界

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書籍についても、自社でスキャナーを多数保有し、時には図書館へ出掛けるなどして、トラックの移動式のスキャナーで世界の本の電子化を進めている。議会図書館などと提携して、古い本のデジタル化を進めているのは有名だ。

同様のことはグーグルも行っているが、グーグルとの違いは高品質のスキャンを行っていることと、電子データを図書館が安く利用できるように努めている点だ。ケールの目的は利益ではない。「すべての知識へ、どこからでも等しくアクセスできること」は、グーグルの社是にも共通しているのだが、ケールはその仕組みにわたるまで、パブリックのための自立したかたちを求めているのだ。

「人々のため」の新たな挑戦

ケールは今また、もうひとつの取り組みを始めた。きっかけは、本をスキャンするインターネット・アーカイブのスタッフが、高騰し続けるサンフランシスコの家賃が高くて生活が苦しいと訴えたことだった。非営利組織の給料は高給とは言えないだろうが、テクノロジー関係者が多いサンフランシスコは、普通の人々にとってますます住みにくいところになっている。

彼らに限らず、苦しい生活を強いられている人々は多い。そうした人々の手助けとなるために、ケールは金融業界の経験者と共に、インターネット・アーカイブ信用組合を立ち上げたのだ。相互扶助のかたちで、普通の人々が生活を支え合う方法をこれで探ろうとしている。

「人々のため」。テクノロジーのもうひとつのあり方を、ケールは具現化しているのである。

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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