“元祖クラウド”グーグルの大勝負、急拡大する法人ビジネス《特集マイクロソフト》

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アジュールの登場前に一気に差を広げる戦略

マイクロソフトの進出は「脅威にはなりうる」とジラールド氏も認める。もともと多くの企業はこれまでに、ウィンドウズ上で走らせる社内アプリケーションソフト等に莫大な投資をしており、大企業などはこうしたアプリケーションを容易にはクラウドへ移植できないという事情があった。ところが、マイクロソフトが新たに発表した「ウィンドウズアジュール」を用いれば、簡単にクラウド上へ移植できる。

さらに、オフィスも将来的にはクラウド経由で提供される見込み。クラウドコンピューティング時代にも、クライアント/サーバー時代と変わらぬマイクロソフトの優位性が続く環境が着々と整いつつある。

しかし、そこはグーグル。「マイクロソフトの参入こそがクラウド市場が飛躍する大きなチャンスだと思う」(グロツバック氏)と冷静だ。「マイクロソフトが本気になってくれたことで、むしろクラウドの有効性がしっかり証明された」。

現時点でグーグルにとって“朗報”なのはアジュールのリリースが09年以降とアナウンスされているだけで、正式な発売日が未定なことだ。機能アップを急ぎ、アジュールが登場する前に差を広げてしまう--これがグーグルの戦略だ。

もっとも、グーグルが描くクラウドとマイクロソフトとでは大きな違いがある。アジュールが専用データセンターを利用したホスティング型サービスとして設計されているのに対し、グーグルやセールスフォースなどクラウド企業が提唱するのは、自社サービスにも用いている大量のサーバー群の一部を複数企業に割り当てるマルチテナント型。これにより企業のコスト負担を低く抑えられるうえ、スケールアップも容易にできるとする。

グーグルの辞書によると、自社専用のプラットフォームを作る“囲い込み”のビジネスは、真のクラウドではない。ユーザーはコスト面での利点を享受できないうえ、プラットフォーム同士で互換性がなければ、複数のベンダーが提供するサービスを1画面上に同時に表示する「マッシュアップ」など、クラウドならではの活用が難しい。

クラウド時代も1社囲い込みで独り勝ちをもくろむマイクロソフト。グーグルは新たな発想でその牙城をどれだけ切り崩せるか。これまでにない大勝負になる。

(週刊東洋経済)

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