「アル・ヴェル」の納期が短くならない裏事情 人気車に違いないが要因は国内だけじゃない

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アル・ヴェルは日本で生産して海外に輸出している。海外向けの台数もかなり確保しなければならないとみられ、これが日本国内での納期がかかる要因なのではないかと、自動車業界ではささやかれている。

アジア新興国でのアル・ヴェルの車両価格は、日本円にして1000万円を超えるケースが目立つ。ベトナムではほぼ2000万円だという。日本からの完成車輸入となるので関税などの諸経費が高いこともあるが、それでも驚く価格設定となっている。各国とも日本のように車種ごとの細かい販売台数を示す公的データがないものの、われわれ日本人の想像をはるかに超えるほど裕福なアジアの富裕層の間で、飛ぶように売れているようだ。

日本で訪日外国人旅行客を狙い、普通の自家用車をタクシーとする「白タク」の車両にアル・ヴェルを使っている違法業者がいるのは、「日本に旅行に来てアル・ヴェルで現地を回った」という写真をSNSに上げることがステータスになるという話すらある。

アル・ヴェルは中国では“高級商務車”というカテゴリーに属する。このカテゴリーで人気の高いGM(ゼネラルモーターズ)の「ビュイックGL8」を脅かす存在となっている。

筆者が訪れたことのあるインドネシアやタイでも都市部ではアル・ヴェルをかなり見かける。まだまだ四輪車の普及がこれからというベトナムでも、ホーチミンあたりの大都市では頻繁にアル・ヴェルが走っているのを目撃した。

今年2月に開催された、インドのデリーオートエキスポの会場にはアルファードが参考出品され、地元インドの人たちの大注目を浴びていた。ある意味、アル・ヴェルは新興国向け戦略モデルといってもいいポテンシャルを持っている。

新興国で個人輸出されるほど人気のアル・ヴェル

日本からは新車だけでなく、年式を問わず中古車としてアル・ヴェルを海外に輸出しているケースもあるようだ。中古車といっても、海外バイヤーが新車として日本国内で購入後すぐに登録抹消手続きを行って輸出してしまうケースもあり、事実上新車が個人輸出されていると言っていい状況も目立っているという話を聞く。

主な出荷先はケニア、マレーシア、香港とされており、いったんそれらの地域に荷揚げされた後に、さらにさまざまな国へと出荷されるようだ。

日本仕様ならではで助手席側前部に通称“キノコミラー”といわれる補助ミラーがあったり、リアウインドウの排ガス規制に関するステッカーなどが貼ってあったりする。これにステータスを感じるユーザーもいるようだ。

もちろん専門の輸出業者が行うケースがメインのようだが、自動車流通に詳しい関係者はこう証言する。

「それこそ家族ぐるみでつきあいのある友人のネットワーク内にバイヤーがいて、普通の一般家庭で1年ほどアルファードやヴェルファイアを新車購入して使った後に、高値で買い上げて海外輸出するケースもあるようです」

つまり、土地転がしならぬ“アル・ヴェル転がし”が普通の家庭で行われているというのである。もちろん購入する側も転がす目的は理解して毎年代替えを繰り返しているようだ。別の業界事情通は、「転売目的でアル・ヴェルを買っている人は確実にいる」と話す。

新車を買う際、日本国内だけでなく海外でも、それがいずれ中古車として流通することを想定したクルマ選びがあるというのは、賢い教訓かもしれない。

小林 敦志 フリー編集記者

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こばやし あつし / Atsushi Kobayashi

某メーカー系ディーラーのセールスマンを経て、新車購入情報誌の編集部に入る。その後同誌の編集長を経て、現在はフリー編集者。

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