若者支援の現場の”共通言語”をつくりたい 『若年無業者白書』をクラウドファンディングで作ったわけ(上)

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 日本には、若年無業者が63万人――。
 若年無業者は、内閣府の『子ども・若者白書』によると、15歳から34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしてない人のことを指し、対象人口の割合では2012年は2.3%と緩やかに上昇し続けている。
 そんな中、この若者無業者をめぐり、新しい取り組みが行われた。若者就労支援を行うNPO育て上げネット(工藤啓理事長、東京都立川市)と立命館大学が手を組み、民間として初めての「白書」である『若年無業者白書――その実態と社会経済構造分析』を制作したことである。
 「若年無業者の実態を明らかにすべく調査研究事業に挑戦する」と、インターネットを通して不特定多数から小口の資金を募る「クラウドファンディング」で資金を調達し、育て上げネットが運営する支援機関に訪れた若者(独自事業および東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府で実施している国の「地域若者サポートステーション」などの利用者)を対象に、若者無業者の実態を分析した。
 2000年代に入り、「ロストジェネレーション世代」「ニート問題」「ひきこもり問題」「非正規雇用問題」など若者問題が表面化し、「若者問題」「若者支援」に関心が集まった。しかし、その一方で、自立困難な若者には「やる気がない」「怠けている」という感情論が多い中、なぜ、『若年無業者白書』を作ったのか――。育て上げネットの工藤啓理事長と立命館大学大学院先端総合学術研究科の西田亮介特別招聘教授に話を聞いた。

ニート理由2位「その他」ではわからなかった

工藤:今回、NPO育て上げネットが支援する2300人のデータを使い、『若年無業者白書』を自分たちで作ったのは、若者支援に携わる“現場”同士の相互コミュニケーションの土台を築かなければならないという思いがあったからです。

日本社会は2000年代まで、若者が支援されるという想定なきままに歩んできました。若者は社会を支える存在とみられ、「まさか、支えられる側の人はいないだろう」と。実際に2000年以前まで、所得の再分配の執行機関である「役所(国、自治体ともに)」に“若者”という名前のつく部課名は確認されていません。一部で存在するかもしれませんが、極めて希有な例だと思います。公的サービスの対象者として若者は想定されていなかった。つまり、「公助」の機能が働いていない。

初めて政治の文脈に「若者支援」として施策ができたのが2003年の内閣府、経産省、厚労省、文科省の1府3省合同で策定された「若者自立・挑戦プラン」でしょう。

また、「公助」だけでなく、「共助」についても、若者は支える側でした。市民活動に源流があるNPOでも、活動領域20項目の中に「若者」という言葉はありません。「公助」「共助」が存在しないとなれば残るのは「自助」、自己責任です。

現在、若年無業者は、63万人(2012年、『子ども・若者白書』)います。こうした風土や歴史が不在の中、2000年代に入り、非正規雇用問題、ニート問題、SNEP問題が表面化した。僕は2004年に育て上げネットを立ち上げ、日本の“若者支援”の歴史と併走したかたちですが、何ら積み重ねがないところに、社会課題としての若者支援と、その解決の必要性だけが表出してきたため、数少ない先行者と、同じく数少ない仲間とともに必死に走り続けた10年という印象です。

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