「反社勢力」との取引、現場は危険だらけ 解消したくても解消できない事情

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債権譲渡も切り札にならず

各金融機関とも、「反社勢力」との取引解消には、警察の協力を得たいのが本音だ。実際、都内のある銀行は地元暴力団との取引解消の際、警察署長室で署長自らが立会って、暴力団組長と役員の間で手続きを履行したこともある。

しかし、すべての取引解消に、警察官が同行するのは物理的に不可能だ。まして、担当者の家族も含めた警護は非現実的でもある。結局、危険が伴う相手であっても、最終的な対応は、金融機関の現場任せになっているケースが多い。

「まずは保身」――。ある大手行の現場の担当者は、相手には「反社認定」が理由とは伝えずに、追加融資を申し込まれたときも具体的な理由は明かさず、ひたすら断る。そのうちに相手が事情をさとるときが多いという。「本部から(取引打ち切りを)やれといわれも、できないときもある」と打ち明ける。

危険な回収作業を銀行員にさせずに、回収専門業者や「反社勢力」対応のノウハウのある預金保険機構の特定回収困難債権買取制度を活用する手もある。

しかし、債権を他社に譲渡する場合、債務者に通知する必要があり、その時点でトラブルが起きる可能性も否定できない。債権譲渡が必ずしも安全な取引解消につながるわけでもない。

反社の定義まちまち、個人の金融インフラ奪うリスクも

「そもそも属性を私どもで反社と認めていても実際そうかどうか、実証が難しい。暴力団排除条項が入る前のものは、期限の利益を喪失させることが契約上難しい」(三菱UFJフィナンシャルグループ<8306.T>の平野信行社長)、「反社社会的勢力の定義が難しい。実際に本当に深くそういったことにかかわっている方もいるし、あるいは報道、風評ベースでというレベルの方もいる。非常に定義も扱いも難しい」(三井住友フィナンシャルグループの宮田孝一社長)──。11月決算の席上、メガバンクの首脳は、「反社取引」が抱える複雑な構造の一端を説明した。

まず、問題になるのは反社会的勢力の定義が、各銀行ごとに食い違い、実際の特定の段階で、警察の認識とも相違するケースが多いという点だ。

警察庁がまとめた「平成24年の暴力団情勢」によると、暴力団構成員および準構成員等は2012年末で6万3200人。また、総会屋やそれに準じる団体の構成員は7500人。合わせても10万人に満たない。

一方、三菱東京UFJ銀行など3メガ銀行の反社データベースは、それぞれ数十万件あるとされ、暴力団員よりさらに広く網羅していることになる。

どこに差異が生じるのか。各銀行の説明によると、各行が持つデータベースは、新聞などの公知情報に、営業部店のほか、警察当局からの情報を加え作成される。

その際、暴力団関連企業が、あるビルにテナントとして入居した場合、そのビルのオーナーも「反社勢力」としてデータベースに加える金融機関もある。

さらに「たとえ公務員であっても、暴力団組員として認定されている親と同居している場合は、その人も反社勢力扱い」というケースもある。最終的に、データベースにどのような組織や人物を加えるのかは、金融機関の個別の判断に委ねられている。

「反社勢力」の定義と線引きが難しいのは、摘発・規制の強化が個人や企業の金融インフラ機能に障害を与えるということに波及しかねないからだ。「ちゃんとした判別ツール、情報提供ツールがないと、そうでない人も排除してしまうリスクもある」と企業の反社対策に詳しい弁護士は話す。

特に普通預金口座は、融資とは異なった機能があり、一律に契約を解除できないとの指摘も出ている。三菱UFJの平野社長は「ある意味、電力・ガスと同じ」と述べ、取扱いの難しさをにじませた。

地銀の役員の1人は「犯罪収益などが暴力団の資金源となることを断つのが、反社取引遮断の目的と考える。(みずほ問題以来の議論の中には)反社に属する個人を排除することに傾きすぎている部分があるのではないか」と、この問題の複雑さを訴えている。

(浦中大我 取材協力:布施太郎 編集:田巻一彦)

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