(第31回)近世日本人数学者列伝~広中平祐~(前編)

桜井進

●創造のある人生こそ最高の人生である

 1970年、国際数学者会議は日本人二人目となるフィールズ賞受賞者に39歳の広中平祐(正しくは廣中平祐、1931~)を選びました。受賞理由は「代数多様体の特異点解消問題の解決」でした。山口県由宇町に生まれた広中は、何にでも興味を抱き、質問する子どもでした。1954年に京都大学理学部を卒業、56年同大学大学院で修士号取得、同博士課程に進むと、早々アメリカに一人旅立ちました。1957年、26歳で米国ハーバード大学大学院に留学の後、Ph. D. を取得、1963年京都大学から理学博士号取得。1960年ブランダイス大学講師、1964年コロンビア大学教授。1968年ハーバード大学教授とアメリカでの研究生活を続け、1975年日本に戻り、京都大学数理解析研究所教授に就任。1996年~2002年山口大学学長。1967年朝日賞、1970年日本学士院賞、1975年文化勲章。1976年には日本学士院会員。「平等主義の強い日本の教育制度では数学の英才は育たない」と主張、数学留学生構想を発表して、1984年に(財)「数理科学振興会」を発足させました。
 このような華々しい経緯から創造される一般的な学者ではないところが広中平祐の魅力といえます。
 最近、私は若い人に向かって話す時、必ずこういう。
 「創造のある人生こそ最高の人生である」と。では、創造とは何か。創造に大切なことは何か。創造は何から生まれるのか。創造の喜びとは何か−。
 それらは「恋愛の喜びとは何か」と問われるのと同じように、難解な問いである。だが、私は思うのだ。おそらく創造の喜びの一つは、自己の中に眠っていた、まったく気づかなかった才能や資源を掘り当てる喜び、つまり新たな自己を発見し、ひいては自分という人間をより深く理解する喜びではないか、と-。
(「生きること学ぶこと」広中平祐著、集英社文庫)
 いつもアグレッシブに自らの能力を開拓し、同時に周りの人々をも幸せに導いていこうとする情熱あふれる数学者こそ広中平祐なのです。その生き様の一端を紹介してみましょう。

●標数0の体上の代数多様体の特異点の解消および解析多様体の特異点の解消

 数学とは数と形の科学であるといえます。形.幾何.は数学の世界ではより一般的な対象として捕らえられるようになり、それが「多様体」とよばれる概念です。代数多様体というのは、簡単にいえば方程式の解(点)をすべて集めた集合(線や面といった形)のことです。例えばx2+y2=1 という方程式の解(x,y)をグラフにしてみると原点を中心とする半径1の円周になります。簡単な代数多様体の例といえます。一般に、x、yについてのn次式方程式f(x,y)=0の解の集合が表す図形を平面n次曲線といいます。このような曲線には曲線同士の交点や尖った点が現れてくる場合があり、それが「特異点」とよばれるものです。特異点があると曲線の研究にとって障害になることがでてくるので様々な手段で特異点を解消するのです。平面曲線の中で変換したり、次元を上げて空間曲線へ変換したりします。特異点の解消により、曲線の研究が容易になるのです。つまり、特異点の解消の問題こそが重要な問題といえるのです。
 1次元代数多様体(曲線)、2次元代数多様体(代数曲面)の場合は特異点解消が可能であることがわかっていました。3次元の場合には広中の師であるザリスキーが特異点解消が可能であることを証明していました。しかしそれ以上、4次元以上の場合にも特異点解消が必要とされていました。すべての次元についての特異点解消問題こそ代数多様体の理論を発展させる上で重要なそして難解な問題だったのです。
 この難問に挑み、師ザリスキーを越えていったのが広中平祐でした。1964年この大問題を200頁にわたる「多重帰納法」によって解決したのです。そして、広中は複素解析空間における特異点解消問題をも解決してしまいました。この証明で広中は「木」や「森」といった新しい概念を導入し「庭造り(Gardening)」という言葉で特異点解消の様子を言い表しました。
 果たして、代数多様体の研究(代数幾何学)が発展していき、さらには数論、微分方程式論など他分野にまで多大な影響を与えることになりました。
桜井進(さくらい・すすむ)
1968年山形県生。東京工業大学理学部数学科、同大学院卒業。
sakurAi Science Factory主宰、サイエンスナビゲーター。東京工業大学世界文明センターフェロー。

在学中から塾講師として教壇に立ち数学や物理を楽しく追求する。講師をする傍ら、身近なものや数学者の人間ドラマを通して数学の楽しさや美しさを伝える「サイエンスエンターテインメント」活動を展開。2000年よりスタートした講演は日本全国で反響をび、現在も数学のロマンをナビゲートし続けている。テレビ出演、聞・雑誌などに掲載され今話題となっている。

【番組出演・新聞・雑誌掲載など】
読売新聞科学欄「サイエンス」講演活動掲載、『めざましテレビ』(フジテレビ)密着取材、『銀幕会議』(フジテレビ)『博士の愛した数式』映画紹介、文科省主催「サイエンスラウンジ」、「サイエン スキャバレー」に出演、雑誌『ダヴィンチ』7月号・8月号にて一青窈さんと対談、『たけしの誰でもピカソ』(テレビ東京)「数学で美しくなる」に数学の伝道師として出演中、他多数。

【著書】
数学のリアル』(東京書籍)、『雪月花の数学』(祥伝社)、『感動する!数学』(海竜社)、『超インド式桜井計算ドリル』(アスコム)、『インド式計算暗算ドリル』監修(宝島社)、『実況解説!インド式算術』(PHP研究所)、『2112年9月3日、ドラえもんは本当に誕生する!』(ソフトバンククリエイティブ)、『数学で美人になる』(マガジンハウス)、『計算しない数学、計算する数学』(共著、技術評論社)、『オトナのための算数・数学やりなおしドリル 』(宝島社)、『天才たちが愛した美しい数式』(PHP研究所)、『数学で宇宙制覇』(海竜社)、任天堂DS『全脳シリーズvol.02 桜井進先生監修 インド式計算全脳ドリル

【公式Webサイト】
sakurAi Science Factory Web Site http://www.ssfactory.net/
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