安倍首相、日ロ交渉に踏み込むも障害だらけ 平和条約締結合意で衆参同日選を狙う?

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第2次政権発足以降、首相が「極めて強かに政治日程を組み立ててきた」(側近)のは周知の事実。具体的には6月上中旬までとみられている通常国会の会期を、歴史的な日ロ首脳会談が想定される6月末以降の7月初旬まで延長すれば、「会期末解散で7月28日投開票の同日選を設定できる」(自民選対)ことになる。

日本外交の大きな転換点となった、佐藤栄作政権での沖縄返還や田中政権での日中国交正常化でも、両首相は外交合意の直後か数カ月後に衆院解散を断行している。ただ、「沖縄解散」(1969年)では自民が大勝したが、「日中解散」(1972年)では自民が議席を減らした。今回も、首相が前のめりで交渉に臨めば「強かなプーチン大統領の手玉に取られ、平和条約締結だけ食い逃げされて、4島返還どころか2島返還すら実現困難になる」(外務省筋)ことにもなりかねない。

そうなれば、北方領土の旧島民も含め、国内から安倍外交への批判が噴出し、同日選に打って出ても「衆参での自民敗北につながり、首相も窮地に陥る」(自民選対)との見方が多い。首相側近も「首相の悲願とする憲法改正を実現するためにも、現状の衆院での『与党3分の2』を手放すような勝負はするべきではない」と指摘する。

日ロ交渉に絡む解散説は、首相の地元にプーチン大統領を招いた2016年12月の「日ロ・山口会談」の前にも、永田町でささやかれた。この会談で「北方領土と平和条約締結という日本外交最大の難題解決に道筋をつけて、翌年の年明けに解散総選挙を断行するのでは」との観測からだった。しかし、合意に前向きとみられていたプーチン氏が、この会談では一転して交渉加速に慎重姿勢を示したことで、解散説も立ち消えとなった。

1強同士だが「引き分け」も極めて困難では?

首相と大統領は「ウラジーミル」「シンゾ―」と互いにファーストネームで呼び合う親密な関係が“売り物”で、それが「交渉進展への拠り所」(首相側近)だ。しかし、「領土問題が絡めば、双方の国益が真正面からぶつかり、少しでも妥協すれば自国内での立場が危うくなる」(元外務省幹部)のも間違いない。

そもそも、首相が2島返還を手がかりに最終的には4島返還を目指すとの姿勢を示せば、プーチン氏の反発は避けられない。繰り返し「56年宣言」の重要性を主張してきたプーチン氏だが、その一方で「日本に引き渡された後の2島に、日ロどちらの主権が及ぶかは宣言に書かれておらず、今後の交渉次第だ」とも発言している。さらに、これまでの交渉の裏舞台では、日本に引き渡した2島が米軍の拠点とならない“保証”を求める場面もあったとされる。

双方が国内政治では「1強」の立場を維持しているだけに「安倍政権でしか合意のチャンスはない」(細田派幹部)との見方はあるが、関係悪化が際立つ米ロ外交や、北朝鮮問題での日米とロシアや中国の「対立」など、日ロ合意への「障害」は枚挙にいとまがない。首相の「レガシーづくりへの執念」とは裏腹に、柔道が得意のプーチン氏のセリフのように「引き分け」に持ち込むのすら「現状では極めて困難」(外務省筋)というのが実態のようだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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