エネルギー危機で着火 資源ファンドの急拡大

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未曾有の原油価格上昇をはじめとする資源価格の高騰は、まるで収まる様子がない。エネルギー危機の問題が大きくなれば、それを追い風にする資源ファンドの拡大に拍車がかかる。(『週刊東洋経済』6月2日号より)

 資源・エネルギー関連のファンドへ猛烈な勢いで資金が流入している。投資信託の比較や評価情報を提供するモーニングスターによれば、日本国内で販売されている資源・エネルギー関連ファンドの純資産総額は、足元で2800億円に達した。この資産規模は2年前と比較すると約9倍、昨年3月から見ても倍以上の規模に拡大している。

 現在、日本で販売されている公募投資信託の純資産総額は、国内投資・外国投資を合わせ80兆円近くに達しており、まだまだ規模は小さいながらも、同ファンドの拡大のペースは際立っている。今年3月にHSBC投信は「世界資源エネルギーオープン」というファンドを設定した。HSBCグループで運用を担当するシノピア・アセット・マネジメント(アジア・パシフィック)のパトリス・コンクシコールCEOは、「資源・エネルギーセクターは大きなブル(強気)マーケットのトレンドに入っている。現在のエネルギー資源を取り巻く環境の追い風に乗って利益を享受する企業が数多く出ている」と自信タップリに話す。

 資源危機が追い風 潤う企業も続出

 近年急騰した原油価格は1バレルで60ドル台に張り付いたまま。「上がって40~50ドル程度のものだと思い込んでいた」(市場関係者)というように、ここ数年の資源マーケットの動きは誰もが予想だにしない沸騰状態だ。原油にとどまらず金属資源も同様の動きを見せた。1990年代以降に1トン当たり20万円台で推移した銅の価格は2004年末から急騰し始め、昨年から今年にかけて一時100万円の大台に乗った。原油や銅のみならず、相場の急上昇が一服しても、かつての水準に逆戻りする様子は見られない。 こうした資源価格急騰の背景には、中国をはじめとする新興国の経済成長で急速な需要の拡大に対し、供給サイドでボトルネックが出始めていることが影響している。ここ数年で発見される油田は深海や砂漠など、どこも採掘が困難な場所ばかり。採掘場所の問題だけでなく、北海油田を持つイギリスが原油の輸出国から輸入国へ転じていることも大きな要因だろう。

 また、エネルギーに転換可能なサトウキビやトウモロコシがエタノール生産用として大量に利用され、食用が不足するという思わぬ余波も生じている。トウモロコシ価格の高騰を受けて業界関係者からは、「メキシコではポピュラーな食べ物のトルティーヤが食卓から姿を消した」などというジョークすら漏れる。

 こうした資源需給の逼迫による大きな環境の変化が、またとない“追い風”となる世界的企業が数多く存在することも確かだ。

 資源関連で潤うのは北米最大のアルミメーカー、アルコアや銅生産で世界第4位の鉱山会社のリオ・ティント、世界最大の金属系資源企業である豪BHPビリトンなど。エネルギーではエクソンモービルや英BP、原油と天然ガスの生産で中国最大の石油関連グループを形成するペトロチャイナがある。さらに、再生エネルギー関連では風力発電のリーディングカンパニーとも呼ばれるデンマークのヴェスタス、太陽光発電で注目されるインドの発電機メーカー、バーラト重電などが挙げられる。

 世界エネルギー機構は、今後2005年から2030年の間に増加するエネルギー需要を満たすには、供給インフラに対し約2400兆円の投資が必要になるとのリポートを出している。「たとえば日本のIT投資は政府・民間を合わせても10兆円程度だった。エネルギー関連には日本のIT投資の200年分以上に相当する投資が今後二十数年で行われることになる。これだけ巨額な資本が投下される分野には、必ず投資のチャンスが生まれるはず」(松田宇充HSBC投信社長)と大きな期待を寄せる。

 史上最強の相場師とも呼ばれるジョージ・ソロス氏など大物投資家たちが、ブラジルでのバイオエタノール増産支援に対し総額143億ドルもの投資を行うとの話も出ている。モーニングスター調査分析部の濱野里砂マネージャーも「資源ファンドは投資信託の主流とはなりえないが、資源やエネルギー関連は息の長いテーマになる」と見る。

 日本で今年1月に公開され、米国のアル・ゴア元副大統領が地球温暖化の危機を声高に訴えた『不都合な真実』は「センセーショナリズムに走りすぎている」「(映像で使用されている)データに過誤がある」などの批判もある。数多くの資源エネルギー危機説に対して、ある程度割り引いて受け止めることも必要だろう。ただ、資源の世界的な枯渇懸念は経済の構造的変化を促す大きな原動力にはなりうる。言い換えれば企業にとって大きなビジネスチャンスが到来することになる。足元の資源・エネルギーファンドの急激な拡大は、本格的な変化の到来を知らせているのかもしれない。

書き手:筑紫祐二

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