混乱が続く無認可共済の行方、衣替えした少額短期保険は早くもピンチ?

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普通の生命保険に入れない知的障害者向けの共済を販売していた全国知的障害者共済会。今年2月から少額短期保険会社「ぜんち共済」として新たなスタートを切った。仲間同士がお互いに助け合う非営利組織の「無認可共済」が、次々と少額短期保険会社(少短)に衣替えしている。非営利の時代とは違って、ぜんち共済はれっきとした株式会社。売り上げを伸ばし、利益を上げることは至上命題だ。そのためには「営業担当者も新たに採用して福祉団体への営業も行う。代理店制度もテスト的に採用したい」と榎本重秋社長が抱負を語る。2年目で単年度黒字、5年後に累損解消という修正計画も作成した。これも共済時代には考えられなかったことだ。

そもそも共済とは地域や職業などを同じくする特定の集団による相互扶助の仕組みである。全労済やJA共済のような大手の共済は生活協同組合法や農業協同組合法などの根拠法に基づき設立され、厚生労働省や農林水産省の監督下にある。これに対して、全国に星の数ほどもある共済の大半は根拠法を持たず、行政の規制の枠外にあった。

こうした無認可共済を規制する目的で、2005年7月に保険業法が改正された。職場内共済や加入者1000人以下の小規模共済などの例外を除き、すべての共済はいったん「特定保険業者」として、金融庁の監督下に入り、08年3月末までに生損保会社、または設立が容易な少短への移行を決める必要がある。移行しない共済は廃業するか、あるいは適用を逃れるために加入者1000人以下まで規模を縮小するしかない。

金融庁によれば特定保険業者431団体のうち、規模縮小など保険業法の適用除外となって共済継続を表明している団体が194、他の保険会社と団体契約を締結、あるいは共済契約を移転して契約者の保障を継続する共済が125、あるいは単純に廃業する団体が52団体ある。もちろん団体契約締結・契約移転・廃業に当たっては、十分な資金の裏付けが必要だ。金融庁は今年10月に1億円を超える共済金が未払いとなっている全国共済連合会に業務廃止処分の決定を下した。今後も資金の裏付けのない団体に同様の措置がとられることは必至だ。

保険会社への移行を表明したのは加入者30万人を超えるエキスパートアライアンス、冠婚葬祭共済を手掛けるベルコと互助センター友の会、ペット共済大手のアニコムなど5団体。そのうち冠婚葬祭系2団体が合併する形で、これまでに4団体が保険会社3社への移行を果たした。

資本金少なく債務超過の不安も

残る1団体について、金融庁はノーコメントだが、税理士、公認会計士、中小企業診断士向けの共済であるMFP共済会が生保会社に移行する意思を表明している。開業後は「税理士や公認会計士を代理店として、取引先の個人や中小企業にコンサルティング販売を行う」(同社)という。設立認可が決まれば、既存生保にとって協力なライバルとなるのは間違いない。

一方、保険会社になるほどの顧客基盤も資本力もない、大半の共済の受け皿として用意されたのが少短である。保険会社との違いは、文字どおり「少ない、短い」。保険金の上限は死亡保険300万円、損害保険1000万円と少額に抑えられ、保険期間も生命・医療保険は1年、損保は2年という短期間である。このように商品の規模を小さくすることで、万が一破綻した場合の契約者の負担を最小限にしようという狙いだ。

04年の総務省調査によれば、131の共済団体が少短会社への移行を目指していた。それが今年9月末時点の金融庁の調査では55団体へと減少。実際に移行を果たしたのは43団体で、残り12団体が現在も金融庁と折衝中と見られる。

だが、この少短会社の先行きは必ずしも明るいとはいえない。45ページの表を見ると、比較的早期に設立された少短会社の資本金は数億円規模だったが、最近では数千万円台が目立つ。最低資本金1000万円という設立要件は満たしているが、「収支計画が少しでも狂えば、すぐに債務超過になりかねない」(ある少短会社の社長)。少額会社の場合、債務超過は即業務停止だ。金融庁は「共済時代の十分な顧客基盤を持っているので、収支計画がそう大きくぶれることはないはず」(保険課)と説明するが、やや心もとない。保険商品を扱う少短会社ともなれば、契約の維持・管理コストは共済の時代とは比較にならないほど大きい。増大するコストを賄えるだけの新規契約を本当に獲得できるのか。従来の顧客基盤を超えた営業を行うには代理店手数料などのコストも膨らむ。

次に情報システムや保険計理など業務面の問題がある。金融庁は業務内容に応じて、保険業務知識を有する者の配置を求めている。だが、各社が一斉にこうした人員を採用できるはずもなく、多くの少短会社では保険コンサルティング会社に手数料を支払って業務委託しているのが現状だ。だが、コンサル会社の1社が、同業務からの撤退を表明。少なくとも4~5社の少短会社が同社に業務委託をしていたと見られ、業界内では次の業務委託先探しに躍起だ。これでは「既存の顧客対応すら満足に行えず、とても業務拡大という状況ではない」(別の少短会社)。

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