テスラに悩まされるパナソニック社長の本音 「いったい何者なのか」と自問自答した真意

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リスクはテスラの混乱だけではない。投資に積極的な中国の電池メーカーも脅威だ。EV拡大を国策として進める中国政府の手厚い支援の下、莫大な投資を進める中国の電池メーカーCATLも、中国国内の自動車メーカーのみならず、日産自動車やホンダ自動車など、パナソニックの重要顧客にも、中国国内で発売する一部車種ではあるが採用が始まった。

こうした状況を受け、パナソニック社内には「車載電池は中国勢の勝ち」と見る社員もいる。津賀氏は取材の中で、「われわれの電池が世界最高レベルの品質水準であることに違いはない。パナソニックがCATLに負けたという意見には反応する気にもなれない」と語気を強めた一方で、「当社の競合となりうる筆頭格」とは認めた。また、電子ミラーやコックピット、センサーなど幅広い商品群を展開するパナソニックの車載事業だが、電池に替わるほどの強い部品がないのが現状だ。

定まらない未来のビジョン

家電の会社から脱却したものの、車載部品メーカーとしての持続的な成長に不確実性が出てきたパナソニック。そこで、津賀氏が今回の講演で新たに打ち立てた目標が、「くらしアップデート業」なるものだった。

パナソニックが発表した完全自動運転車のコンセプトカー「スペイシー」。時速20キロメートルほどの低速で走り、通学や物流、高齢者が医療を受ける拠点などのサービスに利用することを想定する(記者撮影)

いったいどういうことなのか。家電販売のような完成品を売り切るビジネスモデルではなく、消費者の暮らしにあわせてソフトウェアをアップデートする家電やサービスを強化し、継続的な課金収入を得るモデルを目指すという。その一例として、街中などの特定区間を低速で走り、宅配や売店、医療などさまざまなサービスを展開できるコンセプトカーや、家の中の情報基盤「ホームX」などを発表。つまり、暮らしを軸としたプラットフォーマーを目指すというのだ。

ただ、この新目標はこれまで打ち立ててきた住宅や車載の強化よりも一段高い次元の話だ。展開する多様な取り組みの中でパナソニックの強みがいったいどこにあるのかはまだ見えにくい。パナソニックが次の100年も存続する上での“自分探し”は、今後も続く。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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