価格競争は進むが大手3社はシェアを維持、格付けは安定的《ムーディーズの業界分析》



コーポレートファイナンスグループ
SVP−リージョナル・クレジット・オフィサー大槻栄美子

・大手通信事業者は市場シェアを維持するとみられ、業界の見通しは安定的である。海外の同業他社と比べ、日本の通信事業者は国内市場で安定した高いシェアを有する。

・移動体通信事業における価格競争激化により、通信事業からの営業収益および営業利益は圧迫される可能性はあるものの、安定したキャッシュフロー生成能力と健全な信用力が、ムーディーズが格付けを付与する発行体の安定的な格付け見通しを支えている。

・高速モバイルデータ通信サービスが、積極的にデータサービスを利用するユーザー数とデータARPU の増加に寄与するであろう。

・FTTH がIP ベースの固定ブロードバンドサービスの成長を牽引。

・各社の市場地位が大きく変化すれば、格付けと見通しの変更につながる可能性がある。

 日本の大手通信事業者が国内で比較的安定した市場地位を有することを反映し、業界の見通しは安定的である。

 また、安定したキャッシュフロー生成と財務の柔軟性を考慮すると、営業収益および営業利益圧迫と競争激化の可能性はあるものの、各社は債務返済能力を維持するとみられる。さらに、各社の負債水準は格付け水準に相応したレベルにあり、いずれも負債水準およびコスト管理に強い姿勢で臨んでいる。今後12-18ヶ月間の格付けを左右する主要な要因は、ユーザーの利便性と満足度を高める戦略の実行能力、収益源の分散化の進捗、競争激化と最先端技術導入に伴い高まる事業リスク緩和のための財務戦略の実施である。

 移動体通信サービス市場では、ソフトバンクがボーダフォン日本法人(現ソフトバンクモバイル) を買収し、ナンバーポータビリティー制度が導入された2006 年以降、価格競争が熾烈化している。積極的な価格戦略が需要を喚起し、携帯電話の総契約件数は2007 年度に6% 増加した。各社のサービス料の引き下げを伴う競争は今後も続くとみられる。移動体通信と固定通信サービスの両方を提供する大手3 社にとって、移動体通信事業は今後も強力な収益源となるだろうが、移動体通信事業からの営業収益と営業利益は圧迫される可能性がある。現在、移動体通信事業者の市場地位は総じて安定している。積極的な戦略が奏功し、ソフトバンクモバイルの市場シェアが拡大した一方、NTT ドコモは過去2 年間でシェアが縮小したが、2008 年7 月末で依然51.6%のシェアを保有している。2G (第二世代) サービスから3G (第三世代) サービスへの移行が加速し、現在は3G サービスのユーザーが主流となっている。2008 年7 月末時点の3G 契約件数は約9,180 万件に上り、総契約件数の88.2% を占めた。同時に、3.5G データサービス(HSPA1 /EV-DO Rev.A2 ) のユーザーも、3.5G サービス対応の端末の普及に伴い増加している。

 高品質の通信インフラと携帯端末が市場の成長を後押しするであろう。総務省の調査によると、2007年のモバイルビジネス市場の規模は1.15 兆円となり、前年から23% 拡大した。
モバイルビジネス市場はモバイルコンテンツ市場(市場規模4,230 億円、前年比16% 増) とモバイルコマース市場(同7,230 億円、同29% 増) から構成される。変化し続けるユーザーのニーズに対応するための方策の一つとして、通信事業者は事業提携を通した豊富なコンテンツの利用を促進している。このようなアプローチがデータARPU の引き上げに寄与するだろう。

 固定通信サービスでは、ブロードバンドサービスへの需要が強く、トラフィックも増加している。成長の牽引役はFTTH (2008 年3 月末時点の契約件数1,210 万件、前年同期比38% 増)であり、ADSLのユーザーは減少している(同1,270 万人、同9.3% 減)。

 FTTH の重要なサービス内容の1 つが、高品質のIP 電話であるため、既存の音声通信サービスからIP電話への移行が進んでいる。2008 年3 月末時点のブロードバンドサービス契約件数2,870 万件のうち(2007 年度比8.7% 増加、2007 年度は前年度比13.5% 増加)、IP 電話の契約件数は1,750 万件であった。しかし、今後、全体の契約件数の伸びは減速するだろう。

 固定通信市場ではNTT グループが支配的市場地位を持っている。同グループは2008 年3 月末に次世代ネットワーク(NGN) サービスを開始した。このような先進的な通信環境が、最終的には魅力的なコンテンツの提供を促進するであろう。

 日本の通信セクターは長期的に次世代インフラとサービスの開発を継続していくであろう。そのようなインフラを通して提供される優良なコンテンツに対するユーザーの需要が拡大すると同時に、ノントラフィック事業の売上高と利益も増加するだろう。大手通信事業者のNTT、KDDI およびソフトバンクでは、移動体通信事業からの収益の寄与度が依然高いが、競争の激化によって通信事業からの営業収益や営業利益は圧迫されよう。

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