世界のロボット開発をリードする男 ルンバから産業用ロボットまで

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アメリカでは今、ロボットが次の産業として注目を集めている。製造現場、医療現場、教育現場、そして家庭で、ロボット技術は少しずつ浸透し始めている。そうしたロボットは、SF 映画で描かれていたようなヒューマノイドの形はしていないが、自律的に作動し、状況を判断しながら任務をこなすという点では、りっぱなロボットだ。そうした潮流の中で、ブルックスの考え方や技術力は多くの人々を勇気づけているのだ。

MITの教授からの転身

ロドニー・ブルックスは1954年に、オーストラリアのアデレードに生まれた。小さい頃からコンピュータ作りに励んでいたが、それは当時、町にたった1台しかコンピュータがなかったからだ。何でも手に入る部品を用いて、自前でコンピュータを作ったのだ。

大学では数学を専攻した。これもコンピュータ科学を教える大学がなかったからである。母国で数学の教授としてやっていくつもりだったが、アメリカで研究アシスタントになる道があると知り渡米。その後、スタンフォード大学のコンピュータ科学で博士号を取得し、しばらくしてマサチューセッツ工科大学(MIT)で教えるようになった。

MITの研究室では、何本ものワイヤにつながれた大きなロボットが何台も作られた。そのロボットのいくつかは、研究室が引っ越しする際には持ち運べないほどに拡張していたくらい、みっちりと作り込まれていた。

アイロボットの創設は、まだMITに在籍中のこと。教え子らと共に創業した同社は、売れるロボットを生み出すまで何年もの歳月がかかったが、今日では成功したロボット企業の好例として、世界から注目を集めている。

その後、ブルックスはバクスターを生み出すためにMITでの名誉ある教授職を離れた。バクスターは、そのアームを人が動かすことで作業を記憶する。こちらのプラスティック部品をあちらへ移動させ、さらに別のものと組み合わせるといった作業だ。半分は機械、半分は人間のような形をしたバクスターは、人間のすぐそばで仕事をする未来のロボットの先駆けとなる存在だ。

ロボットは人間の仕事を奪うという見方があるが、ブルックスが目指しているのは、人間の能力を増大させるロボット。果敢で壮大な実験だ。ブルックスは言う。

「失敗するという選択肢が与えられなければ、可能性を極限にまで推し進めることはできない。世界の問題を解決するためには、もっと失敗が必要だ」。

ロボットは今、そんな実験の心から生み出されているのだ。

 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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