なぜユーグレナは75億円調達するのか 年商21億円のミドリムシベンチャーの新たな挑戦

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そもそもユーグレナという社名は、ずばりミドリムシの学名。学生時代バングラディシュを訪れ、飢えに苦しむ現地の子供たちを救うために何ができるかと考え抜いた出雲社長がたどり着いたのがミドリムシだった。日本名についている「ムシ」が誤解を招くこともあるが、クロレラと同様、単細胞の藻の仲間。たんぱく質やミネラルを豊富に含み栄養価が高い。しかも、多細胞の植物と異なり固い細胞壁がないので消化吸収がよい。

沖縄県石垣島で養殖、乾燥、粉末加工し、青汁ならぬ「緑汁」として直販するほか、健康食品会社や化粧品会社へのOEM供給、ミドリムシクッキーやミドリムシハンバーグ、ユーグレナヨーグルトなど外食、食品会社への原料供給が収益源となっている。2018年までの5年で食品売上高を10倍近い150億円(現17.5億円)に引き上げる。M&Aはそのための手段だ。

本命はエネルギー活用

さらに、市場が最も注目するのはミドリムシのエネルギー活用である。

ことにNEDOや文部科学省からの助成金も受けているジェット燃料に大きな期待が集まっている。ミドリムシはもともと油分も豊富に含むが、遺伝子改変など研究開発を進め、油分含有率30%、1個体の1日の生産量38グラムでの量産化にメドをつけた。食品や化粧品などと異なり、燃料に使うとなるとその生産量は膨大になる。

生産用プールは商用生産が始まる2018年までにまずは100万㎡(現在は技術開発のための50㎡)を準備するという。量産化には気温・水温、湿度、紫外線、水質など厳密な管理が必要だ。さらに油脂の抽出、精製設備も設置しなければならない。

エネルギーというと、昨今の電力事情の中で発電燃料への期待もあることはある。だが、経営戦略部長の永田暁彦取締役はきっぱりと否定する。「付加価値の取りにくい事業への参入は考えていない」。また、ジェット燃料は液体燃料の携帯での需要が永続的に期待できる、ということもある。その一方でいろいろな問題も抱えてもいる。出雲社長は「ミドリムシの燃料が実現することで、食糧が不足する事態をなくしたい」と言う。

ミドリムシのジェット燃料への活用は、バイオ燃料ブームによって、北米をはじめ多くの耕作地が食糧生産をやめ、高値での買い取りが期待できる燃料用の穀物生産に切り替えてしまい、その結果、途上国を中心に食糧や飼料の供給不足が起きてしまったことに対するアンチテーゼでもある。

公募増資により得た資金によりスピードを加速できるかどうか。壮大な目標を持ったミドリムシベンチャーの新たな挑戦が始まる。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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