イエレンFRB次期議長の大きなリスクとは? 上院公聴会の証言でわかった、危うい現状認識

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イエレンの最大の誤りは、金融政策の効果を過大評価していることだ。金融政策は、金融危機への対応と短期的な景気刺激策しかできない。そして、前者の役割は「バーナンキ(現FRB議長)時代」に終わった。今や新しい現実の新しい正常な米国経済になっているのだ。現在の正常な米国経済を否定するイエレンにとっては、今の正常が異常なのだろう。

7%の失業率が異常なのだろうが、それを解決するには、短期的な景気刺激策を過剰に行うしかない。それでも、構造的な失業者、現在の経済構造に合わない労働者を雇うほど労働市場は逼迫していない。条件次第で働くという労働者が枯渇して初めて、彼ら、彼女らが雇われるステージがやってくる。それは異常な過熱であり、そのときがバブルである。

イエレンは、ないものねだりをしている

つまり、正常状態の経済において、失業率を大幅に下げることを金融政策で行うには、バブルが起きるほどの異常な金融政策を続けなければいけないのだ。

だから、イエレンはないものねだりをしているのであり、その根源には、金融政策に対する過信があるのだ。その意味で、人々に嫌われていたサマーズ元財務長官は正しいのであり、失業の解決のためには、財政政策が必要であり、さらにいえば、需要政策ではなく供給サイドの構造改革、生産性の向上のための労働者の再教育、人的投資が必要なのだ。

それは金融政策にはできない。それをイエレンはできるとは思っていないはずだが、米国経済に対する現状認識が誤っているために、ないものねだりをする結果になっており、これが最大のリスクなのだ。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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